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「したって……。俺とするってなんだよ」
「俺っ、キスだけじゃなくて……。その……カズくんとエッチもしたい」
顔を真っ赤にさせて呟く慎文とは裏腹に和幸は、軽く目眩を起こし、頭を抱え込んだ。和幸ですら初体験は高校だったのに奴はもう済ませている。年上のプライドをへし折られると同時に目の前の男に嫌悪感を抱く。
「はぁ⁉意味わかんねぇ。そもそも俺男だし、つーか気持ち悪ッ」
これじゃあ兎の皮を被った狼同然。可愛い弟のように思っていたが騙されたような感覚を覚えた和幸は、慎文の左腕を掴んで強引に立ち上がらせると、部屋の出口へと向かう。
「もう二度と来るな」
「カズくん待って。ごめん。でもカズくんとのキスは気持ちよかったから……」
慎文が必死に謝ってきているのを無視して部屋の外まで引っ張って追い出すと、勢いよく扉を閉めて鍵をかけた。途端に脱力したように扉を伝って座り込む。
激しく叩かれる扉。「カズくんッ……。カズくんッ」と切羽の詰まった慎文の声が五月蠅くて、和幸は耳を塞いで慎文の気配がなくなるまでじっとしていた。
プライドを傷つけられた以上に、年下だと甘く見ていたことに後悔する。
あのまま自分が抵抗しなかったら最後まで食われていたのではないかと思うと恐怖を覚える。
男とヤるなんて冗談じゃない。
そういった嗜好があることは知らない訳ではないが、和幸自身は至って普通の健全な男の子だ。
恋愛対象だって女性だって信じて疑わない。和幸は慎文に性的な対象として見られていたのだと思うと、肩を抱えながら悪寒で震えが止まらなかった。
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