chapter⑪

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翌朝、和幸はいつものように出勤の支度をしてリビングへと出てきた。 慎文も和幸の出勤に合わせて早起きをしては二十四時間スーパーに買い出しに行くと、お弁当と朝食を作る。 和幸の調子は、幾分か良くはなってきているが喉が本調子ではない。お弁当と一緒に蜂蜜檸檬を水筒に忍ばせておいた。 「慎文、もらった休みは長いのか?」   食卓テーブルで向かい合って朝食を食べていると角食を貪りながら和幸に問われて心臓がドキリとする。 「えっと……。あぁ、うん」 「いつまでいるんだ?」  和幸の家に行った時点で聞かれることは予想ついていたが、会いたい一心で深く考えていなかった。 いつまでと聞かれても今回は家を飛び出してきたのだから、期限はない。今朝方、家を出てきた時から切っていたスマホの電源をつけてみたら、父親と兄から鬼のように電話がかかってきていて、すぐさま電源を落とした。 「うーん。ずっとかなー」  半分冗談、半分本気でお道化た様に答えてみたが和幸の眉間に皺が寄り、怪訝そうな顔をされる。和幸にも事の経由を話すべきだと分かっていても正直に話すのには勇気がいる。黙っていようがいまいが、和幸に知られてしまうのは時間の問題。早いうちに言うべきであっても、早朝の短い時間で話せるような内容ではない。 「ずっとなわけないだろ。お前には家業の手伝いだってあるから、そんなに長くはあけられないだろ」 「和幸の連休中はずっといるよ……」  言葉を濁して返答したものの、納得をしていないような顰め面で睨まれる。慎文は慌てて「ほら、もう行く時間じゃないの?」と彼の気を逸らすしかなかった。  慎文に言葉で部屋の時計に視線を送った和幸は、慌てて薄手のトレンチコートと鞄を持って玄関先へと向かう。 慎文も後を追い、靴を履き終えた和幸に手作り弁当を渡すと、快く受け取って貰えたことに安堵した。 以前までは嫌々そうに受け取っていたのであまりの嬉しさに、和幸の肩を掴んでキスをする。  初めての「いってらっしゃい」のキス。昨夜は遠慮して触れる程度しかできなかったので長めにしてみると、和幸が肩口を叩いてきた。 慎文は仕方がなく、抱き締めた体を離すと振りかざした和幸の右手が軽く脳天をチョップする。 「いたっ」 「長すぎ」 「だって、俺の愛で和幸に頑張ってほしかったから……」 「お前がしたかっただけだろ」  言葉では一見冷めているようにみえても、赤面させて唇を手で隠す和幸は満更でもないようだった。  離れるのが惜しくて和幸の右手を握る。 自分でも和幸に依存しすぎだと自覚はしているが、好きだと言う気持ちは抑えられない。明日から和幸も連休に入るのでずっと一緒に過ごせるのが楽しみで仕方がなかった。 「今日終わったら会社に迎えに行くよ」 「別にいい」 「俺が迎えに行きたいから、ダメ?」 「……好きにしろよ」  そっと右手を離し、慎文に背を向けて扉の外へと出て行く背中を見送る。和幸の不在の日中は掃除やら洗濯やらをするにしてもほぼ暇を持て余す。和幸の帰りを待つよりは自ら迎えに行った方が気持ち的にも落ち着いた。  今日の夜こそは和幸に話そうと決めた。  今後の自分たちのこと、和幸と将来的にどうなりたいのか。生涯のパートナーとして生きていくことを和幸も思ってくれているだろうか……。
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