chapter⑪

7/13
前へ
/113ページ
次へ
夜空の中に一際目立つ赤い電波塔を背に園内を歩く。 丁度桜が満開の時期だったのか園内には夜桜らの下で写真撮影をしている二十代前半くらいの若者や何を思っているのか桜の下で佇んで眺めているスーツ姿のサラリーマンなどがいた。  桜を見るのは地元では海沿いの丘公園でも見る事はできるものの、和幸とこうして満喫するのは初めてだ。 慎文も嬉しさのあまり、若者たちにあやかって桜の木の下で和幸を強引に抱き寄せて写真撮影をする。  撮影を終えた後の画像を確認すると、恥じらいの現れた和幸の仏頂面が愛おしくてたまらなかった。 早速ツーショットの写真をスマホの立ち上げ画面の壁紙にする。やはり飛び出してでも出てきて和幸に出てきて良かったと頬を緩ませた。    暫く桜を眺めながら公園の通りを歩き、二丁ほど先まで辿り着いたところで、休憩と称して和幸は桜の真下のベンチに座り始めた。 まだまだ桜を堪能したかった慎文は電波塔と桜が映るようにスマホを構えて試行錯誤していると和幸に名前を呼ばれる。 「なに、和幸?」  慎文はスマホを構えるのをやめると、和幸が座るベンチに近づいた。 「お前、俺に隠してることあるだろ?」  鋭くも神妙な面持ちで見上げてくる和幸にドキリとする。隠していることと言って一つしかない。思い当たる節があるだけに一瞬にして鼓動が早くなった。  桜に気を取られていて忘れかけてしまっていたけれど、和幸に話さなければならないことがあった。  和幸の口振りからしてもう知られてしまっている……?  責任感の強い和幸だから自分が家を飛び出してきたことを良く思わないような気がした。 「うーん」  正直に話してしまいたい気持ちと和幸の反応が怖くて勇気がでない気持ちが交差する。ウンともスンとも頷けずに、腹部の前で手を組んで俯く。 「今日さ、昼にうちの母親から連絡があったんだよ。お前がそっちに来てないかって」 なかなか口を開かない慎文を諭してか和幸が話し始めた。 「来てるって返したら、お前のおふくろさんが帰ってきなさいって激怒してたって言ってたぞ?お前、勝手に出てきたのか?」  このまま隠し通すことができないことは分かっていた。 自分の母親と和幸の母親は同級生で昔から家も隣同士であることから仲がいい。だからこそ直ぐに話が行き届いてしまう。 もしかして、和幸との関係も知れ渡ってしまったのだろうか。 慎文はぎこちなく頷くと和幸が大きな溜息を吐いた。
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加