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「お前、向こうで何があったんだ?うちの母親が俺とお前が付き合っていること知っていて驚いたんだけど」
案の定、向こうの家族にも既に知られてしまっていた。一日も経てば知れ渡るのも当然のことではあったが、自分の軽率な発言と行動のせいで和幸の家族も巻き込むほどの大ごとになってしまっているのだと実感する。
「和幸……。怒らない?」
愛想を尽かされるのが怖くて、事実を話すことを躊躇いながらも問う。
「怒るか怒らないかは話を聞いてからだ。ここまできたらどちらにしても俺だけ知らないわけにはいかないんだろ?」
「うん……」
眉間に皺を寄せているが、一先ず話は聞いてもらえそうで安堵する。慎文は和幸の隣に腰を掛けると、俯きがちに背筋を伸ばして拳を膝の上で握った。
「母親にお見合いを勧められたんだ……」
順を追ってここ数週間の出来事を和幸に話していく。
お見合いを勧められて、恋人がいるからと遠回しに断ったこと。
けれど、強制的に縁談の話を進められてお見合いの席に立ち会わなければならなくなったこと。破談になっても尚、母親は諦める姿勢を見せずそれどころか、恋人を罵られたことで頭に血が上った慎文が全て話してしまったことと、それによって母親に怪我をさせて兄にも和幸のことを否定されてしまったこと全てを。
「俺、本気で和幸と一緒に暮らしたいと思ってるんだ……。それだけじゃなくて和幸とちゃんとした形で繋がりが欲しくて、その為に制度とかいっぱい調べて……。ダメかな……」
慎文の問いに対して和幸は更に険しい表情をして腕を組む。
「慎文、こういうのは慎重に進めるべきだろ?何で親に話す前に相談しなかった?」
和幸の言葉はごもっともで、本来であれば当人同士で話し合ってから、頃合いを見て親に話すべきだった。分かっているからこそ和幸の言葉が胸に強く刺さってくる。
「和幸が……。電話は当分疲れるから辞めようって言ってたじゃん。だから俺は我慢したんだよ?電話して相談したかったけど和幸の迷惑になるかなって思ったから……。俺だって家族に和幸との関係認めて欲しかったからこんな形で知られるのは不本意だったんだよ。けど、我慢ができなくて……」
「それは申し訳ないと思ってる。お前が相談したいときに乗ってやれなかったのは悪かった。だけど、俺とお前のことは勢いで言うべきじゃない」
闇雲にすべてを親に話したわけじゃない。
自分だって自分なりに考えた結果だ。気持ちを少しでも汲んでくれる言葉が欲しかっただけに、的外れな和幸の言葉は慎文の不安を煽る。
やはり和幸はそこまで俺のことが好きではないのかもしれない。一緒に居たいと思えるほど好かれていないのかもしれない。こんな重いやつのことなんか……。
今までの鬱憤を晴らすように感情が溢れ出して涙が出てくる。和幸に宥められるように頭を撫でられたが嬉しくなかった。
言葉で欲しい。そんな冷静な態度をとる和幸に腹が立って、慎文は和幸の手を払い除けた。
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