chapter⑫

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玄関通路を抜けて、リビングへと入るとダイニングテーブルの椅子に隣同士で両親が座っていた。 父親は腕を組んで険しい表情、母親は困憊しきっているようだった。額には痛ましいガーゼが当てられていることから、自分のせいで負わせてしまった傷に胸を痛ませる。  二人の姿を目にして入り口で立ち止まっていた慎文を兄が背中を押したことで、漸く二人の元まで近づくと、向かいの椅子に座る。 兄も隣の椅子に座り、落ち着いたところで父親の第一声が「お前は何を考えているんだっ」だった。 「父さん、母さん。ごめんなさい」  とりあえず、農場の仕事に穴をあけて迷惑をかけたこと、母親に怪我を負わせてしまったことを深々と頭を下げて謝ったが、父親の怒りは収まっていないのか鼻息を荒らげて表情が険しいまま。  母に至っては「怪我のことはいいの」と許してくれたが、「慎文はそんなはずないもの、何かの夢よね?それとも和幸くんに唆されたのかしら」と現実を受け止めるどころか和幸を悪者に仕立て上げてきて、感情的に反論したくなる心をグッと抑える。 「まぁ、父さんも母さんも落ち着いて。まずは慎文の話を聞こう」  流石長男の威厳で冷静さを保っているのか、激昂する両親に対して宥めるように割って入ってくる。 きっと兄がいなければお互いが感情的になって話にすらならなかったであろうから、兄が居てくれて良かったと思えた。 慎文は深呼吸をして気持ちを落ち着かせると一からすべてを家族に話した。  和幸のことをどれだけ愛しているか、この先どんな人を紹介されたところで揺るがない気持ち。 彼と結婚して一緒に暮らすつもりでいることが自分の幸せであることを真剣に話す。家を出る前に和幸に「感情的になるな」と釘を刺されたので、両親を刺激しないように言葉を選びながら話した。 全ては自分のことを真剣に考えてくれて向き合ってくれている和幸の為。期待を裏切ることはしない。どうにかこの話し合いで納得してもらうことに精一杯だった。
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