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アンドロマケは、手早くヘクトルの衣の帯を締める。
侍女たちが部屋に入り、テーブルにパンとワインを並べた。
「あなた、人に指図するのは得意ですが、話を聞くことは苦手ですよね」
「あのカッサンドラが男と二人で来たのだぞ。お前も勘違いするに決まっている」
「それはヘクトル様が、カッサンドラ様の結婚をお望みだからですわ」
「兄としては当然だ」
ヘクトルは口を尖らせるが、アンドロマケは意に介さず夫の身支度を済ませる。
館の女主人は、義妹カッサンドラに「アポロン様のお告げのことですね?」と、問いかけた。
カッサンドラが無言で頷くと、アンドロマケは「みなさま、心行くまで話し合われた方がよいかと」と頭を垂れ去っていった。
ヘクトルは「俺は、勘違いをしたようだな」と腰掛け、テーブルでパンをかじるトリファントスを見つめる。
「賢者殿、カッサンドラを傷つけるつもりはないと言っていたが、何があったのだ」
「お兄様、そのようなこと、私は気に留めておりません」
いきり立つ王女に未来人は手を振って頭を下げる。
「カッサンドラさん、さっきは本当にすみませんでした。ヘクトルさん、あのですね」
トリファントスはかじったパンをテーブルに置いて、トロイアの王子に向き直った。
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