2「はじめてのおつかい」は、三度もやり直す ~異世界の単位~

3/5
前へ
/342ページ
次へ
 クロノスの技で巻き戻った時間は、再び動き出す。  医師はパリスに使命を告げた。 「市場に行って、オリーブの実、0.002タラントン買ってきてちょ」 (タラントンって、わかるヤツいるのか? まあいいか) 「市場って遠いんですか?」 「いんや、歩いて10分じゃ。じゃ、これお金。いってきてちょ~」 (『分』は変えなくていいよな)  ヒポクラテスは、0.005ドラクマをパリスに渡して見送った。 (ドラクマって言われてもピンとこないよな~、仕方ないや)  こうして再びパリスは「はじめてのおつかい」に挑む。  なのに、診療所を出た途端、またまた時間の神クロノスが現れ、時を戻してしまったのである! ************  遥か彼方の天空までクロノスが出張し、造物主に怒っていた。 「なんでぇ? ちゃんと単位直したよぉ。重さはタラントン、お金はドラクマ」 「このたわけ! 古代ギリシャに、0.0002なんて小数、あるわけねーだろ!」 「う、うっそお! ギリシャって、ピタゴラスとかユークリッドとか、すごい数学者いるじゃないですかあ。小数なんて小学校で習いますよ」 「分数は古代バビロニアからあったがな、今みたいな小数は16世紀の終わり、ヨーロッパの学者が考えたのよ。日本では戦国時代だな」  なぜギリシャの神クロノスが、日本の戦国時代を知っているかは、どうでもいい。ついでにいうと「世紀」という言い方も、キリスト教以降だ。  なお「ヨーロッパ」という地方名はギリシャ神話由来なので、問題ない。 「大体、0.005ドラクマ、なんてコイン、あるわきゃないだろ! お前、0.1円って見たことあるか?」  造物主は項垂れる。 「円より小さいのは『銭』。ドルなら『セント』。しっかりせい!」 「じゃ、ドラクマより小さいのは……」 「お前、何度も『検索』ってやってただろ!」  もう検索なんかしたくない、と造物主は落ち込んだ。 「はぁ……で、『分』はやっぱダメ? ギリシャじゃないから? でも古代ローマではあったみたいだし……」 「概念はあってもそんな細かい時間が計れる時計、古代にあるわけないだろ! 一般人はそんな単位知らなかったわ。『分』が表示される時計は、小数点よりもっとあと17世紀半ば、日本はもう江戸時代だな」  日本の歴史にも詳しい時間の神クロノスは、再び、なんちゃって古代ギリシャ世界へ戻っていった。  残された造物主は泣いていた。  ま、また検索かよ~、それに小数使えないってことは、分数かよお! 分数の計算、難しいんだよ。通分とか、割り算は逆にするとか……また調べても怒られるだろうし……そうだ! この手で乗り切ろう!  造物主は、三度目のクエストに挑んだ。
/342ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加