14人が本棚に入れています
本棚に追加
クロノスの技で巻き戻った時間は、再び動き出す。
医師はパリスに使命を告げた。
「市場に行って、オリーブの実、0.002タラントン買ってきてちょ」
(タラントンって、わかるヤツいるのか? まあいいか)
「市場って遠いんですか?」
「いんや、歩いて10分じゃ。じゃ、これお金。いってきてちょ~」
(『分』は変えなくていいよな)
ヒポクラテスは、0.005ドラクマをパリスに渡して見送った。
(ドラクマって言われてもピンとこないよな~、仕方ないや)
こうして再びパリスは「はじめてのおつかい」に挑む。
なのに、診療所を出た途端、またまた時間の神クロノスが現れ、時を戻してしまったのである!
************
遥か彼方の天空までクロノスが出張し、造物主に怒っていた。
「なんでぇ? ちゃんと単位直したよぉ。重さはタラントン、お金はドラクマ」
「このたわけ! 古代ギリシャに、0.0002なんて小数、あるわけねーだろ!」
「う、うっそお! ギリシャって、ピタゴラスとかユークリッドとか、すごい数学者いるじゃないですかあ。小数なんて小学校で習いますよ」
「分数は古代バビロニアからあったがな、今みたいな小数は16世紀の終わり、ヨーロッパの学者が考えたのよ。日本では戦国時代だな」
なぜギリシャの神クロノスが、日本の戦国時代を知っているかは、どうでもいい。ついでにいうと「世紀」という言い方も、キリスト教以降だ。
なお「ヨーロッパ」という地方名はギリシャ神話由来なので、問題ない。
「大体、0.005ドラクマ、なんてコイン、あるわきゃないだろ! お前、0.1円って見たことあるか?」
造物主は項垂れる。
「円より小さいのは『銭』。ドルなら『セント』。しっかりせい!」
「じゃ、ドラクマより小さいのは……」
「お前、何度も『検索』ってやってただろ!」
もう検索なんかしたくない、と造物主は落ち込んだ。
「はぁ……で、『分』はやっぱダメ? ギリシャじゃないから? でも古代ローマではあったみたいだし……」
「概念はあってもそんな細かい時間が計れる時計、古代にあるわけないだろ! 一般人はそんな単位知らなかったわ。『分』が表示される時計は、小数点よりもっとあと17世紀半ば、日本はもう江戸時代だな」
日本の歴史にも詳しい時間の神クロノスは、再び、なんちゃって古代ギリシャ世界へ戻っていった。
残された造物主は泣いていた。
ま、また検索かよ~、それに小数使えないってことは、分数かよお! 分数の計算、難しいんだよ。通分とか、割り算は逆にするとか……また調べても怒られるだろうし……そうだ! この手で乗り切ろう!
造物主は、三度目のクエストに挑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!