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またまたクロノスの技で巻き戻った時間が、動き出す。
なお、時の遡りを何度行っても、寿命が縮まるといったペナルティはない。読者が減っちゃうかもしれないが、時間の神クロノスもそこまではわからない……。
医師はパリスに使命を告げ、拳を作って見せた。
「市場に行って、オリーブの実、こんぐらい買ってきてちょ」
「こんぐらいですね。市場ってどこですか?」
パリスも拳を作って、ヒポクラテスに確認を求める。
「あっちじゃ。まっすぐ歩いたらすぐ市場に着くよ~ん」
医師は通りを指さした。
「わかりました! すぐ行ってきます!」
勢いよく若者は飛び出していった。
「お~い……お金、忘れとるよ~」
医師が追いかける前に、パリスの姿は消えていた。
屋外の広場のあちこちに、物売りの屋台が置かれている。
パリスは、オリーブの実がどっさり売ってある屋台を見つけた。
「オリーブをこれぐらいください」
屋台の女店主に、パリスは拳を作って見せた。
「あいよ。お金は?」
「お金? あ……」
パリスは自分の迂闊さに気がついた。
「持ってないです。その……田舎にはお金がなくて、僕はいつも森で捕まえた兎と交換してたけど……」
田舎から出た狩人は周囲を見渡した。都会の市場の周りには、兎が潜んでいそうな森はない。
「いいよ。あたしの頼み、聞いてくれたら、オリーブやるよ」
パリスは顔を輝かせた。
やった! 初めてちゃんとしたクエスト来たぞ!
ミノタウロスをやっつけろ? ゼウスの杖を盗め? えーい、何でも来い! それぐらいじゃなければ、まだ正体が全然わからないラスボスなんて、倒せるわけない。
「ふふふ、あんた、いい男だよね。だから『壁ドン』やってみせてよ」
「『壁ドン』? あ、ダメですよ。うちの田舎、家が日干し煉瓦なんで壁叩いたらすぐ崩れちゃうんです」
「この辺の建物は石でできてるから大丈夫よ。さ、あたしが手本見せるから、やってみせて」
店主に言われるがまま、パリスは素直に「壁ドン」をやった。すごいおまじないなのだろうか、と疑問に思いつつ。
「きゃあああ、キターーー♪♪♪ イケメンに『壁ドン』やってもらうの夢だったのよお。じゃ、オリーブおまけするよ」
よくわからないが、パリスは両手に余るほどのオリーブを抱えて、ヒポクラテスの元に帰った。
いつまでもお金を取りに帰らないと心配していたヒポクラテスは、思った以上の収穫に顔をほころばせる。
もちろん、弟子入りは認められた。
突然、パリスがイケメンだと明かされたが、聡明な読者さんは、ギリシャでパリスとくればイケメン、と思ってくれるはず。だからこれは、ご都合主義でも設定改変でもなんでもない。なんでもないの!
とにかく「はじめてのおつかい」は無事に達成され、パリスも、そして天空の造物主も心から安堵した。
(二度と、単位の問題には関わらない!!)
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