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『シェフを呼べ!』
夜景が見える高層ビルのレストランに似つかわしくない怒号が叫ばれた。
怒号の主は、金の指輪をたくさん指にはめ、高級ブランドのスーツを身にまとったいかにも“成金”の風貌をしていた。
慌ててきた気弱なシェフは、すみませんと口にしそうになったが、成金は意外なことを口にする。
『シェフ!なんて、美味しい料理なんだ!』
『へ?』
罵声を浴びせられると思い込んでいたから、思わず間抜けな声が出ていた。
成金はかまわず、シェフの料理を絶賛する。
『こんな美味しい料理を作れるシェフが、いたなんて!ぜひ、うちに雇いたい!』
それを聞いた弱気なシェフは涙ぐむ。
いままで料理のために、先輩から怒られたり休みも取れずにひたすら美味しい料理を作るためだけに頑張っていたいままでが報われたような心地を味わっていた。
シェフの傷だらけの手と成金が平らげた美しく盛り付けられていた料理が、それを物語っていた。
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