初めての授業と元気な友達

1/1
前へ
/15ページ
次へ

初めての授業と元気な友達

次の日。 目覚まし時計のけたたましい音で目が覚めた。制服を着て、朝食を食べていると「湊ー!お友達ー!」と言う母さんの声がしたので、あと数口のパンを口に詰めて家を出た。 「ごめん、ちょっと早すぎたかな?」 「あぁ時間決めてなかったね、50分に俺の家の前でいい?」 「うん、そうしよう!」 「そう言えば質問コーナーで聞けなかったんだけど、何で日本にしたの?珍しいよね!」 「あー、日本の文化や歴史を学びたかったからだよ。」 「そうじゃなくて…うーん、学びたかった理由って言えば良いかな?」 不意に視線を地面に落とし、ゆっくり話し始める。 「…笑わないでね?ボク、日本の漫画を読んでこういうの描きたいって思ったんだ。」 とても素敵な夢だと思った。なのに、なんでそんな恥ずかしい事のように話すのか疑問に思った。 「すごいなぁ…それで、高校生で日本語勉強して留学したなんてさ…」 「すごい、か。そう言ってくれたのはミナト君が初めてだよ。親には猛反対されたから。分かってはいるんだけどね、漫画を職業にするのは難しいって事くらい。」 俺は夢なんて立派なものはないけど、アッシュ君が頑張っているのはかっこいいと思ったし、何よりそれを俺に話してくれて嬉しかった。 「そっか…俺は、そういうのよく分かんない。でも、応援してる!絶対世界に轟く漫画家になってね。」 「ふふっ、やっぱりミナト君に話して良かったな。」 アッシュ君は前を向いていた、なにか吹っ切れたような顔をしていた。 「おはよう!」 教室に入った途端にアッシュ君はクラスメイトに囲まれる。 「おーアッシュと、えっと〜…鈴鹿君!おはー」「登校も一緒なのかよ、仲いーな」 「うん、ミナト君はこっちに来て一番の友達だからねー!」 一番の友達と公言してくれて自然と口元が緩む。 「今日は日本に来て初めての授業だね。」「うん、楽しみだなー!」 雑談していると先生が教室に入ってきた。 「座れー。国語の教科書の用意はできてるなー?」 一時間目は国語だ。今やっているのは古文の勉強で、アッシュ君は額に皺を寄せて一生懸命考えていた。 「ミナト君!この怪しって疑わしいみたいな意味じゃないの?」 「そう言う意味もあるけど、古文だと不思議っていう意味もあるんだよ。」 ちょっと前にやったことを覚えていて本当に良かった。これからは予習復習をちゃんとしようと肝に銘じた。 「へぇ〜やっぱり難しいな。ミナト君は博識だね!」 難しい、と言いながらアッシュ君はどこか楽しそうだった。 「博識って言葉を知ってるアッシュ君も凄いと思うよ。」と言うと 「漫画家目指してるからね!」 と自慢げに微笑まれた。 「昨日の宿題はやってきたかー?」 「やべー、やってねぇ」「ちょっとここ分かんねーわ、教えて」「式の展開?ってなに?」 二時間は数学で、宿題という単語が出されて教室がざわつく。俺も分かんない問題が数箇所あるので当てられませんようにと祈った。 いつも通り生徒が次々と当てられていく 「じゃあ次、リアム。」 難しい問題を当てられたのはアッシュ君だった。教室は、アッシュ…ドンマイといった空気が流れる。 「はい、えーっと…74xです。」 「っ!…正解だ。次ー」 正解⁉︎先生も少し驚いてたようだった。 「アッシュ君って数学得意なんだね!」「そんな事ないよ。数学は寧ろ苦手な方!」 アッシュ君が苦手なら俺はどうなるんだ。 「今日は、中国の歴史ですね。」 三時間目の社会は日本史から世界史になり、どんどん難しくなっていく。 「歴史は苦手なんだよね…温故知新って言われてもよく分かんないし。」 「そっかぁ、ボクは好きだなー。歴史って物語があるじゃん。」 「アッシュ君、歴史漫画とか読んでそうだもんね。」 「うん!日本は面白いよねー。ボクは源氏物語が好き。」 意外だと思った、てっきり戦国時代とかが好きだとばかり思っていた。 「あ、ミナト君。これなんて読むの?」 「これはー、殷(いん)だね。」 見落としていたが、社会は比較的国語よりも漢字が難しい。 「分かんないことがあったら聞いてね!俺はそんなに頭良くないけど…」 「そうさせて貰うよ。ありがとう!」 「今日は、実験をするので気をつけてくださいねー。」 四時間目の理科は実験で炭化水素の結合を調べるらしい。 「実験かーワクワクするな!」 実験の為に三人の班に分かれた。班は俺と拓也君とアッシュ君だった。 「この授業は分子内の結合と化学的性質を調べるのが目的です。炭化水素は〜…」 「炭化水素の実験…なんだか面白そうだね。」 ナトリウムやエタノールを混合して反応を見る。 「うーん、まだなんともいえないね。ミナト君、もっと近くで観察しなきゃ分からないよ。」 「あ、うん。そうだね。」 正直、実験どころではなかった。距離が近くて全く頭に入ってこない。 距離が近いくらい友達なら普通だろ、なんでこんなにドキドキするんだ。自分に問いかけても分からない。顔が近い、男から見てもイケメンだ。 「…ん?ミナト君どうし、た、の…」 アッシュ君が俺の方を振り向くと、至近距離で目が合った。 アッシュ君も距離が近い事に気づいたらしく「あ、ごめん…」と言って離れくれた、笑っていたけど耳がほんのり赤くなっている気がした。俺も顔が熱くなって目を逸らす。 「お前ら何してんだ?さっさと結果と考察書こーぜ!」 「う、うん。そうだね。」 四時間目が終わり、ようやく昼休み。 「あー、やっぱり授業は疲れるな。ミナト君一緒にお昼食べない?」 「う、うん!どこにする?」 いつも教室の端で一人静かに食べていたので、一緒に食べようと言ってくれて単純に嬉しかった。 席を決めていると拓也君がアッシュ君に話しかけてきた。 「アッシュー!一緒に昼飯食おうぜー」 「いいよー。ミナト君も一緒に食べてもいい?」 「あ、いや、俺はいいよ。」 拓也君はアッシュ君と食べたいはずだ、そこに俺が入るととても気まずい。 「ん?勿論いいぜ!」「え、あ、ありがとう。」 流石拓也君だ。嫌な顔一つせずに快く受け入れてくれた。 「決まりー!そこの席で食べよ!」 席に座り、お弁当を開く。 「うぉー、アッシュの弁当旨そー!」 アッシュ君のお弁当は白米、梅干し、綺麗に巻いてある玉子焼きに人参の炒め物などで構成されている如何にも日本弁当という感じの弁当だった。 「ありがとう。頑張って朝から作った甲斐があるよ!」 「え、このお弁当アッシュ君が作ったの?すごい!」 留学生だから家事も一人でしてるのか。そう考えると本当に凄いな、と思った。俺は料理がからっきしで、料理をしようとしたら母さんに止められた事もある。 「俺玉子焼きもーらい!うっわ、超うめー!」 「そっか、良かったー」 アッシュ君は勝手に食べられて怒るどころか、嬉しそうに笑っている。 「マジうまい!湊も食ってみろって!」「いや、勝手に食べるのは…」 「いいよ。ボクもミナト君に食べて欲しいし!」 アッシュ君がそういってくれるなら、と玉子焼きを口に運ぶ。 「!美味しい…!」 「本当!えへ、嬉しいな…」 「おいおい!俺と全然反応違くないかー?」 にやにやしながらアッシュ君を茶化す。するとアッシュ君は慌てた様子で首を振った。 「へ?いやいや、タクヤ君に言われた時も嬉しかったよ!」 「そうかー?まあいいや。それより拓也君っての止めね?拓也でいいよ!」 「あ、うん。タクヤ!」 「湊も!リピートアフターミー、拓也!」 「え、えー、拓也!」 「いいな!友達って感じで!お前らも呼び捨てでいいだろ!」 確かに友達という感じがして嬉しかった。 「あー、じゃあ…アッシュ!」 「へ⁉︎あ、あーミナト!」 アッシュは少しモゴモゴしてから俺の名前を呼んだ、照れた様子で呼ぶからこっちまで照れる。 「だからー!俺ん時と反応違くねー!」 … 昼休みも終わり、五時間目。 「五時間目は音楽です。楽譜を見て、メロディに合わせて歌いましょう。」 音程を気にしながら歌うが、やはり音がズレるところがある。 アッシュの方を見ると、澄んだ少し低い綺麗な声で歌っていた。 歌い終わり、隣とどういう気持ちで歌ったらいいのかを話し合う時間になった。 「やっぱり此処は強めに歌ったほうがいいと思う。」 「確かに!でもその前は優しい声で…あ、ここの音ドじゃなくてレだよ。」 「本当だ…だから音程が合わなかったのか。ありがとう。」 今日は夏休み明けの授業だから五時間で下校だ。 「こっちにきての初めての授業はどうだった?」 「凄く楽しかったよ!疲れたけどね。」 あははと笑いながら話す。俺は友達が中々できなくて、悩んでいた。 だからアッシュと過ごす学校生活は新鮮で楽しかった。 「そっか!楽しそうで良かった。数学の時大活躍だったし!」 「活躍って…大袈裟すぎるよ…!」 アッシュは驚いた顔をして謙遜する。 「あ、所でアッシュはどういう系統の漫画が好きなの?社会の時気になったんだよね。」 「うーん…色んなのが好きだけど、強いて言えば恋愛系と学園ものかなぁ…」 「そうなんだ…恋愛ものなら母さんが録画してるのちょっと観たことあるな。」 「えぇ!ボクも日本の恋愛ドラマ見たい!今度見に行かせてもらってもいい?」 「勿論。母さんに言っとくよ!」 漫画の話で盛り上がり、家の前に着いたのでアッシュと別れた。 今日はアッシュともっと仲良くなれたし、拓也とも友達になれた。 良い日だな、そう思いながら眠りについた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加