夢に降り注ぐ花

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 僕は自分よりも若い、というよりも幼さを残す君への感情は親が子に向ける“家族愛”や“親愛”に近いものだと思っていた。  幾数年たち、幼さは凛々しく若草のような瑞々しさと不意に見せる大人になりきれない優美さに気づかぬうちに囚われていたのだ。 「そう、あの夢のお花」 「あぁ、えぇと、赤い花が燃えるという」 「えぇ、その夢。最近変わったの。今度はね、勿忘草とかすみ草が空から降ってくるようになったわ。まるで雨雫のように、星屑のように降ってくるのがとても美しいわ」  予定が合わず、ティーサロンでの逢瀬もこれが最後。 結局、夢にでてくる赤い花は見ることは叶わなかったが名前……アネモネというものを調べればいのだろう。 「今日のお花も素敵ね」  だんだんと色づく桜のように美しさが逢うたびに増していく。微笑む唇はさくらんぼのように紅く、白い肌によく映える。嫌いだと云っていた黒髪も、焦げ茶色の瞳も、余すところなく美しくなった。 「……戯言を申してもいいかな」 「ここでの会話は私達しか知らぬこと。なんでも仰ってください」 「心強い。それでは、今まで君とは日の高いうちにしか逢わなかったが、今日の満月はとても美しいだろうね」 「……そうね、私は湖面に映る月も好きだわ」  くふり、と二人は顔をあわせて笑えば、意味が通じたこともわかってしまう。それくらいには長い縁だ。 「本当に残念、今日までしかお逢いできないなんて」 「まったくだ。もっと君の成長を見ていたかった」  今日は先に僕が席を立つ。 さようなら、お元気で。なんてありふれた言葉はなく、立ち去る。 「夢に出てきた花は、どれもあなたから頂いたものでした」  君の涙に濡れる声は僕の耳には届かなかった。
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