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「退屈だわ」
大袈裟にため息をついた姫は、暖炉の横にかけてある大きな自画像を動かしました。
姫の部屋には、抜け道があります。
自画像の後ろには大きな抜け穴、城の外に続く長いトンネルがあるのです。
トンネルは、町はずれにある森の洞窟へと続いていました。
時々ここから町を見に行くのが、ソフィア姫の退屈しのぎでした。
金色の髪やドレスを麻布でできたマントで隠し、薔薇色の唇や白い肌には泥を塗り、みすぼらしい身なりをして町を見歩きます。
誰もが自分よりも貧相な生活をしているのを見て、いかに自分が素晴らしい生活をしているか優越感を味わう、ただそれだけのために町に降りてくるのです。
今日もまた人を見下し良い気分で帰る途中、顔の泥を洗い流すいつもの小川に先客がいることに気がつきました。
背を向け水を汲んでいるのは、シスターのようです。
シスターも人の気配に気づき、ハッとしたように振り返りました。
立ち尽くす同じ年ごろのソフィア姫を見て、シスターは微笑みました。
「お水はいかが? この小川のお水は澄んでいて冷たくてとても美味しいのよ」
ひび割れたガラスコップに汲んだ水を、ソフィア姫に差し出します。
普段なら絶対に庶民のものを口にしたりしないお姫様も、この日は気温も高く、喉が渇いておりました。
お礼も言わずそのコップを娘から奪うと、一滴残らず飲み干しました。
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