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――健悟が検査に行くきっかけは、些細なことだった。
自宅で、2人で布団に寝転び、週末の予定を話していた時……健悟が、ほんの少しだけ眉根を寄せ、苦しそうな表情を見せたのだ。
それが何となく気になった私は、起き上がろうとする彼の背中を支えながら、ふと、聞いてみる。
「健悟。どこか苦しいの?」
すると、彼は小さく頷いた。
「……ああ。最近さ、横になると、少し苦しいんだ。だから、よく寝られなくて……」
成る程。だから、この恋人は、昼間、座った体勢のままうとうとしていることが多かったのか。
(ただの昼寝かと思って見逃していた……。私が、もう少し早く気付いてあげられれば……)
そんなことを後悔しつつ、健悟の言葉に妙な引っ掛かりを感じる私。
私は、寄り添う彼の肩を抱きながら、1つの提案をしてみる。
「ねぇ、健悟?明日、病院に検査に行ってみない?」
「ぅぇぇ……?」
検査と聞いて、私の恋人はあからさまに嫌そうな表情を浮かべた。
けれど――本能とでもいうのだろうか。
私の頭の奥の方で、「絶対に検査を受けさせなければ後悔するぞ」という声がするのだ。
大切な恋人を喪いたくない私は、素直にその声に従った。
「私も一緒に行くから、ね?それに、検査で何も無かったら、帰りは健悟が行きたがっていたショッピングモールに寄ろうよ。君が欲しがっていた、新しいゲーム機を買おうか?」
私の言葉に、ぱっと瞳を輝かせる健悟。
宝石の様な蒼い瞳はきらきらと輝いて――その美しさに、私はつい見とれてしまう。
と、不意に健悟が自分の唇を、私の唇に重ねて来た。
「っ……健悟……?」
突然のキスに私が驚いていると、そのまま私の首に腕を回し、ぎゅっとしがみついてくる健悟。
小さく腕が震えてみえるのは……きっと、彼も不安だからなのだろう。
――無理もない。
健悟は、幼い頃から成長した現在まで、ずっと、難病でもある『キャットアイ症候群』という病気に悩まされて来たのだ。
特に、心臓の症状は重く、幼い頃は何度も病院と家を往復していたと聞く。
大人になった今は、昔からの治療の甲斐あってか、症状も殆ど無くなり、人並みの生活を謳歌していたが――。
(……もしや、再発してしまったのか?)
いや、キャットアイ症候群で再発等聞いたことがない。
(では……何か、別の病気が……?)
頭の中では次から次へと不安が生まれ、私の心と思考を支配していく。
そうして、私が完全に不安の闇に沈みかけた時――ふと、私の両頬が何か柔らかいものに包み込まれる。
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