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嘘みたいな本当の
「貴方は、前世で、その坊やの恋人でした」
――高校2年生の冬。
修学旅行で向かった福岡にて、テレビにもよく出る有名な占い師に、私が最初に言われた言葉がこれだった。
「時代は平安時代頃ですね。彼は、とある豪族のお姫様。貴方は、そのお姫様の従者だった様ですよ」
「え、マジか!やったぁ!なんか、すっげぇな!超嬉しくねぇ?優」
占い師の言葉を聞いて、嬉しそうに蒼い瞳をきらきらと輝かせる元お姫様こと市之瀬 健悟。
一方、私――工藤 優は、完全に引き気味だった。
「……いや、野郎2人だよ?健悟は寧ろ、今の言葉のどこが嬉しいの」
テンション高く喜ぶ健悟に、冷静にそう告げる私。
(大体、こういう占いは、客と話していく中で客の好みを探り、喜ぶ様な結果を言う様になってるんだ)
――まぁ、それでも、この占い師が何故、健悟と私が『前世で恋人だった』と言われて喜ぶと思ったのかは謎だが。
ともあれ、余りに無邪気に喜ぶ健悟を見ていると……胸の中に少しだけ意地悪な気持ちが沸いて来る。
私は、健悟の代わりに占い師の前に立つと、敢えて試す様な質問を口にした。
「なら、良かったら、前世での健悟と私の名前を教えて貰えませんか?……はっきり見えてるんですよね?」
私の質問に、更に目を輝かせた健悟が、ずいっと身を乗り出して来る。
「何それ?!おばちゃん、そんな事も分かるの?!俺も聞きたい!!」
きっと健悟が犬だったら、ちぎれんばかりに尻尾を振りまくっていることだろう。
そんな勢いで、健悟は、私がした質問に食いついて来る。
しかし、私は――、
(きっと、答えられたとしても、頭文字や名前の途中位までだろう。いや、もしかしたら、名前の中に入っている文字を1つだけ、とかかもしれないな)
そういう、意地悪いことを考えていた。
思ったより薄い占いの結果を聞いて、健悟が落ち着いてくれたら良い、なんてことも思いながら。
だが、私の言葉に優雅に微笑むと、占い師はすらすらと答えを口にする。
「青い目の坊やの前世での名前は、『五月姫』ですね。……いえ、『滝夜叉姫』とお伝えした方が分かりやすいかしら?」
「タキヤシャヒメ???」
全く聞いたことのない言葉に、きょとんとした表情を浮かべる健悟。
占い師は、そんな健悟に優しく微笑むと、次いでその視線を私に向ける。
「貴方の前世での名前は、『蜘蛛丸』ですね」
マジか。
もっとふわふわした答えが来ると思い、すっかり気を抜いていた私は、想定外の詳しい内容に、内心酷く狼狽える。
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