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すると、目の前の占い師が――不意に、その穏やかな表情を、厳しいものに一変させる。
「貴方達の絆は大変強く、今生で出逢ったのもまた、運命……そう、必然なのでしょう。ですが、絆が強すぎるが故に……貴方達の魂は、離れることが出来ない様です」
……今、この占い師は何と言った?
「黒髪の君。貴方は、特に。この坊やと離れると、不幸になりますよ」
「はぁ?!」
私の口から思わず叫びが漏れる。
けれど、構わず占い師は滔々と話し続けた。
「この坊やは、前世でのお父上が守護としてついています。そのお父上がとても強い方で……貴方が距離を置いたり、他の方とお付き合いをする様なことがあれば……貴方の命が危険かもしれません」
そんな理不尽な。
(何だって私が健悟に一生縛られなくてはいけないんだ……)
「流石に、それは言い過ぎでしょう?それに、そこまで言うのなら、前世の健悟のお父上の名前とやらも教えてくださいよ」
やや喧嘩腰にそう言い放ってしまう私。
と、占い師は暫し何やら考え込む様な仕種を見せた後、ゆっくりと口を開いた。
「……お父上から許可が出ましたので、お伝えしますね。その坊やの、前世でのお父上の名前は……平 将門公です」
「……は?」
平将門は、流石に私も知っている。
確か、平安時代に大規模な乱を起こした豪族ではなかったか。
そうして、討伐された後は……何度もその怨霊が大災害を引き起こした為、神社に祀られることになった、と日本史で習った気がする。
と、いうことは――、
(……健悟と離れたら、私は、日本を代表する大怨霊に呪われるのか?)
天下の大怨霊の呪いを一身に受ける自分――その姿を想像し、余りの恐ろしさに身震いする私。
しかし、健悟の方は占い師の放った言葉の意味等殆ど分かっていない様で、私に無邪気な笑顔を向けて来る。
「聞いたか?ずっと一緒なんだってさ!へへっ、嬉しいなぁ!多分、俺……今が、生きて来た中で1番嬉しいかも!」
本当に嬉しそうに、白い頬を赤く染めながらそう告げる健悟。
「……その笑顔は、ずるいな」
その笑顔を見た瞬間――不意に、自分でも思ってもみなかった言葉が口をついて出る。
突然の台詞に、私を見上げ、きょとんとした顔のまま固まる幼なじみ。
私はというと、たった今の台詞を誤魔化す様に、健悟のアッシュブロンドの髪をわしゃわしゃと撫でていた。
そうして、話題を変える為、やや慌てながらも違う質問を占い師に投げ掛けてみる。
「距離を置くのは駄目ということですが。それは、物理的に距離を置くのも駄目ということでしょうか?大人になったら、就職に伴って、住んでいる場所が変わったりしますよね?」
すると、今度は――占い師が、まるで憐れむ様な視線を私に向けて来た。
私は、もう、嫌な予感しかしなかった。
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