2177人が本棚に入れています
本棚に追加
「就職……出来ませんよ?」
「え」
何て?
しかし、激しく動揺する私をよそに、占い師は容赦なく言葉を続けていく。
「……残念ながら、貴方は、就職は出来ない様ですよ?将門公がですね、貴方が片時も離れずに、この坊やの傍にいるのを望んでおられるのです」
「そんな……。じゃぁ、私は一生、働けないんですか?」
と、私の言葉に占い師が重々しく首を横に振る。
「正確に言えば……就職、出来ない訳ではないのです。ただ、将門公の妨害が入るので、ちょっと……」
ここで、占い師が初めて、言いにくそうに言葉を詰まらせた。
(……そこまで言いづらい結果なのか?)
私は息を飲む。
と、覚悟を決めた様な瞳で、占い師が言葉の先を語り出した。
「……まともな職場に就職するのは、かなり、難しいかもしれません」
それは、つまり――?
「働くなら、ブラック企業ばかりってことですか……?」
「はい」
即答され、軽くへこむ私。
しかし、そんな私に追い打ちをかける様に、占い師は尚も見えた結果とやらをつらつらと述べていく。
「将門公が、貴方に勤めて欲しくないと強く念じている影響で、貴方は……通常の人が長く働ける様な職場とは縁が無い様です」
なんてことだ。
高校生の内から、お先真っ暗な未来が決定してしまった。
(……働いてみたい会社や、興味のある職種が沢山あったのに)
自分の暗澹たる将来を憂い、私が心の底から落ち込んでいると、健悟がとことこと隣にやって来る。
そうして、ひょいっと、俯く私の顔を覗き込むと、わざとらしく――しかし、腹立たしい位に可愛らしい笑顔を作り、こう言って来た。
「養ってあげてもいいのよ?」
「結構だ!」
健悟の有り難くもない申し出を即答で断る私。
「誰が君の世話になるか。というか、私は信じないからな。よく、占いは当たるも八卦当たらぬも八卦というだろう?なら、私が幸せな職場で働ける未来もあるかもしれないじゃないか」
そう、きっとそういう未来だってあるに違いない。
私は自分に言い聞かせる様に、言い切った。
そんな私をにやにやしながら見てくる健悟。
とても楽しそうな表情で見つめてくる健悟に、何となくムッとした私は、健悟の鼻先に軽くデコピンをする。
「いって!!何すんだよ!折角心配して言ってやったのに!!」
「ご心配ありがとう。でも、その心遣いは不要だよ。例え、世界が滅ぶ寸前になろうと、君の世話にだけは絶対にならないからね」
「言ったな!人の親切を無にしやがって!」
言うが早いか、健悟が私の向こう脛を全力で蹴飛ばして来た。
「いっ……?!」
往来にも関わらず、思わず膝をつく私。
そんな私を見下ろしながら、健悟は尚も悪態をついて来る。
「優のばーかばーか!!!」
馬鹿は君の方だろうが。
(一体どんな力をしてるんだか……)
足を擦りながら、漸く立つ私。
私は、賑やかに囃し立ててくる健悟を見ながら、
(本当に……こいつにだけは、絶対に世話になるものか)
と、改めて心に誓うのだった。
最初のコメントを投稿しよう!