6人が本棚に入れています
本棚に追加
「なあおい、もう良いんじゃないか?」
「何がだ」
俺が煙草に火をつけていると、月は一拍置いて続けた。
「もうこの街を出ても良いんじゃないかってことさ」
月は心なしか俺を心配しているようだった。その様子に俺は出どころの分からない憤りを覚えていた。
「だったら案内しろよ。 お前は案内役なんだろ」
思っていた以上に早口に、大声になってしまった。ビルの黒い影が言葉の響きを余計に冷たく響かせた。月は毅然とした態度で答えた。
「いいや。 駄目なんだ。 次の行き先はあんたが決めるんだ」
こいつ、言っていることが滅茶苦茶だ。俺はここにくるまでの看板を思い出した。結局こいつも案内する気なんてないんじゃないのか。俺は煙と一緒に大きなため息を吐いた。
「とにかく、俺はもう少しここにいる。 何か欲しいものが手に入りそうだからな」
俺のその返事は適当に口から出たものだったが、あながち間違えという訳でもなかった。ここのウサギ達は、明らかに俺にないものを持っていたし、それに俺が彼らに対して負けを認めれば俺は全てを失う、そんな対抗心のようなものを俺は自分の中に認識し始めていた。
「良いか。 あんたは偽りの成長を見ることですべきことから逃げているだけだ」
月は自分で吐き出した煙草の煙の中から俺に言った。
「スーツを変えようがお辞儀をしようが、あんたは前に進むわけじゃないんだ。 分かるだろ? あんたは恐れているんだ」
「恐れているだって? ふざけたことを抜かすなよ。 俺は俺にとって必要なことをしているんだ。 それに......」
最初のコメントを投稿しよう!