3

6/6
前へ
/13ページ
次へ
「それになんだ?」  煙草の煙は、もう既にほとんど月を隠していた。俺はこんな言い争いになる理由がわからなかった。自分が何に腹を立てているのかも、月がなぜ怒っているのかも、そして俺が初めから何を目指しているのかも分からないのだった。俺は口をつく言葉の勢いのまま、思っていることを伝えた。 「何も、俺でなくても良いだろ。 もっと相応しい奴がいるさ」  月は答えなかった。息を吐く音だけが聞こえ、煙がその姿をさらい、月の輪郭は溶けるように消えていった。 「なら旅は終わりだ」  吸いかけの煙草だけがそこに残っていた。  俺は何だか少し切なくなって、その煙草を拾って火をつけた。きっと俺はよくやったさ。よくやった。煙が大きく広がり、俺の身体を、視界を、意識をゆっくりとフェードアウトさせていった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加