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 蛙を蹴飛ばしているうちに俺は出口らしきものを見つけた。というかそれは駅だった。 『3番線。 3番線に電車が止まります。 お待ちの方は』  随分適当なアナウンスだった。辺りには1番線もなければ2番線もない。おまけに途中で喋るのを辞めてしまう始末だ。  兎にも角にも、電車が目の前に止まり、俺は気持ちばかりネクタイを締め直した。ネクタイの中から妙に真っ直ぐな煙草が出てきたのでそいつを口に咥え、中に入った。人っ子一人いない電車の中で俺はライターを探す羽目になった。煙草なんかが出て来なけりゃ必要なかったのに。俺はかなり苛立って席を蹴った。  電車は動き始め、つかつかと駅員の格好をした奴が歩いてきた。 「あんた、あんたよ。 ライター持ってねえか」 俺が尋ねるとそいつは透けたピンクの安ライターをこっちに寄越して真っ黄色の顔に薄ら笑いを浮かべた。おまけにワンツー、などとカウントを取って歌い始めた。 「鯨が宝を持ち腐れ、缶詰作業の辞書にたまらんこいつは、卒塔婆の雨さ」 まるで意味が分からなかったが俺は礼を言って煙草に火をつけた。ライターを返すと駅員はへっへっと笑い俺に 「どこに行くんで?」 と尋ねてきた。 「さあ」 俺は返した。はっきり言ってどこに行けば良いのか俺は分からなかった。取り敢えず出てみなければならない気がしただけだった。 「焦っちゃいけねえさ、ちゃんと順路があんだから。 勿論あんただけのね」 へっへっへっ。俺は貧乏ゆすりをしていた。こんな奴と話してたら頭がどうにかなっちまう。  俺が顔を逸らすと奴は俺の吸いかけの煙草を取り上げて吸い始めた。隣に座ったところを見るに、どうやら体はただの空気人形だった。 「俺は月だ。 あんたの旅、案内してやるよ」  奴の体はふわふわと後部車両に飛んでいって、ニヤニヤとした三日月が宙に浮かんで煙草を吸っていた。見事なクレーター具合だった。  俺は溜息を吐いて煙草を取り返し、目の前で思い切り吸ってやった。
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