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「これは俺にしか出来ないことだ」
社長はそう言って承認印をポンと押した。
「あ、有難うございます」
「そろそろ昼か。今日は、まるやま弁当の生姜焼きにしよう。これは俺にしか決められないことだ」
社長は続けてそう言い放ち、くるりと振り返ってドヤ顔をした。
「何なんです、それ」
「ドラマ見てないのか。『回る名探偵』」
「名探偵が回るんですか?」
「そうだ。昨日の放送では、コーヒーカップに乗りながら謎解きをしていた」
「目が回りそうですね」
「ああ。視聴者からのクレームが沢山来るだろうな。俺も見ていて気持ち悪くなった」
「何でそんな面倒な演出を」
「ん? あのな、初回は回る展望台で謎解きしてただけなんだ。次は鉄道用の転車台、あと何だっけな」
「も、もう良いです! 例を出すと首を締めかねませんから」
「あん? まあ、とにかくだ。タイトル通りに回りながら解決するんだ」
「はあ」
「そこでだ、その名探偵の決めゼリフがな……あ! 無駄話している場合では無かったんだ。甥っ子を迎えにいかなきゃいけないんだ」
社長はジャケットとバッグを抱えて出て行った。
「甥っ子って?」
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