第二章・ー死闘ー

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「手ぇ滑ったからて他署員に迷惑かけんな。このすっとこどっこい」 「だから謝ってんじゃん」  謝れば良いという話でもないのだが、不毛な会話に発展しそうでオフィーリアは長いため息を吐く。  ラキは恐らく、反応しなかったのではなく、出来なかったのだろう。  シャークが相手では無理もないだろうと、戦闘を再開させるためゆっくりとした動作で“アラストル”を構え直す。  ラキは、その背後で悔しさに歯噛みしていたーー。  純然たる殺意を向けられたのは、今日が初めてではない。  ーーなのに、全く反応出来なかった。  あの“昏きもの”は、何の迷いもなくラキを殺しにかかっていた。  本当に、全力の、純然たる殺意。  そんな相手からの攻撃に、あの距離から間に合い、且つ無理矢理割って入り、全て相殺したオフィーリアもまた、凄い。  単純に()()。などという言葉では片付けられない強さが、そこには在った。  あの日、あの手合わせの際、わざわざ勝敗を保留にしたオフィーリア。ラキには敵わない筈だ。敵う筈もない。  足りないどころではなかった。背中を追い駆けるどころか、前を走る足元、姿すら見えてはいなかったのだ。  だからこそ理解出来た。  オフィーリアが放った言葉の意味を、理解した。  オフィーリアは、ラキが“昏きもの”からの攻撃を避けられるという実力が備わっている事を、その潜在的能力を看過している。  だからこその、あの言葉。  それが余計に悔しくて、歯痒くて、血が滲む程拳を握り締める。  自分はオフィーリアから期待されている。まだまだ成長出来る余地があるのだと、強くなれると信じてもらえている。 「……マジでいけ好かねぇ野郎だ」  そう呟いたラキは、人知れず道場を後にするのだった。  
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