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ーーここはイグレシオン。そう大都会でもなく、だからといって、ド田舎でもない。
よくあるような、特に大事件も起こらない、比較的長閑な街並みが並ぶ、平和な場所である。
そんなイグレシオンに佇む、何だか場違いな所轄署がある。
イグレシオン署陰契課。俗に言う吸血鬼とされる、“昏きもの”を主に雇い、人間も入り交じって働く。
そんな人間が犯す犯罪専門ではない、何か超常現象とか、“昏きもの”が起こす事件や事故を取り締まるような、いわゆる対“昏きもの”用の警察署である。
イグレシオン署で働く人々は実に様々で、今日も元気に出勤するものが一人ーー。
「はよー」
黒髪を短くまとめた、目付きの鋭い色男こと、ラキ=ウィルス=ヴェルセルクである。
口には煙草を咥えて紫煙を燻らせ、スーツも良い感じに着崩す彼は、これでも立派に陰契課で働く刑事なのだ。
一応服装も、ブラックのツーピースに焦げ茶のワイシャツ、取り敢えずで深紅のネクタイを緩めに結んではいるのだが、とてもではないが働く現役刑事には見えない。
煙草を咥え、気怠げに歩く様はどこからどう見ても、犯罪者そのものに思える。
とにもかくにもまぁ、遅刻ぎりぎりの時間に出勤したにも関わらず、何故か今日に限って署内には誰の姿も見えなかった。
課長補佐の一人であるシェイカー=オフ=エディは、趣味の研究に没頭するあまりしょっちゅう仕事に出勤するのを忘れていたり、遅刻するのがデフォルトだから良いとして。
……あまり良くはないが、百万歩譲って大目に見るとして。
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