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「誰だ。てめえ?」
取り敢えずは名乗れと言外に示してやるのだが、相手は我関せずといった感じで、ずかずかと陰契課のオフィスにまで入ってくるとサングラスを外し、胸ポケットに差す。
見えた瞳の色はラキの予想通りというか、言わずと知れた“昏きもの”特有の赤だった。
「ふぅん。イグレシオン署ってこうなってるんだ? ヴァイス署とはちょっと違って面白いにゃあ」
相手が放った“ヴァイス署”というキーワードにラキがぴくりと反応する。
そう遠くもない昔に、やはり同じようにしてイグレシオン署に侵入してきたヴァイス署の刑事と手合わせをしたのは、ラキの記憶にも新しい。
その時はもう、そいつに良いように扱われてしまい、しかも勝敗を保留にするとまで譲歩されて、とてつもなく悔しい思いを噛み締めたものだ。
あの野郎も大概いけ好かねぇヤツだったがと、内心で愚痴を溢しながらも、改めて目の前に立つ“昏きもの”に視線を向ける。
名乗りもしなかった相手はあくまでも表面上はにこやかで、スーツを着こなしヴァイス署の名前を出したからには、恐らく刑事なのだろうと推測する。
するのだが、纏う雰囲気や伴う迫力からして相手はラキと同類、まぁどうしたってあんた、刑事より犯罪者向きじゃねぇの、とか言いたくなる印象を受けるのだ。
「うちは不法侵入厳禁なんだが。つーか、お呼びでねぇヤツぁ、さっさと帰れ」
件の刑事にとある忠告されてからは、さすがのラキも気を付けている事がある。
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