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 ミノルの朝は早い。  まだ外も暗いうちには起き出して、身の回りのことをすませ、山へと入る。そこで山菜をつんで、ニハチの蕎麦屋に卸すのが彼の仕事であった。  今日もいつものように、籠いっぱいの山菜を摘んで、ニハチの蕎麦屋へと向かったのである。  長い農道の先に、ぽつねんと建っている古い店。その窓からもうもうと湯気が立ち上っている。 「おーお、やってるやってる」  アカリが弟子入りしてから二週間が経った。最初は音を上げるかと思った弟子修行もどうやらなかなかの好調で、朝からニハチは大張り切りのようである。 「あ、おはようございます!」  暖簾をくぐると、制服の上から割烹着姿のアカリがこちらを振り向いた。どうやら鰹節削りと取っ組み合っている最中のようである。 「アカリさん! 鍋から目を離さない!」 「はい!」  すかさずニハチの鋭い指導の声が飛ぶ。 「厳しいねえ~」  笑いながら、ミノルは背中の荷を降ろす。  アカリは始発電車でこの店に通い、八時になると登校する。放課後にも勿論やってくる。文字通り、まじめに、まっすぐ、寄り道もせずに通うものだから、さすがのニハチも心配になった。  弟子に、と言われて頷いたものの、ここまで真摯に通われると、少々不安である。 「ご両親は、何も言わないんですか?」  あまりにも毎日きっかりとくるものだから、ニハチがそう訪ねたところを、アカリは肩を竦めてこう言ったものだ。 「お父さんもお母さんも、今はあたしが何やっても怒りませんし、仕方ないと思ってくれているみたいです」 「でも、それって……」  あんまりいい状態だとは言えないのではないだろうか。 「知りません。ざまあみろ、です。家にはちゃんと帰ってるし。あたしだって悩んでるってことで、あの二人もどんどん悩めばいいと思う」  どうやらアカリは本来跳ねっ返りの性分のようである。 「で、お嬢ちゃんは今日もお出汁の練習かい?」  どっかりとカウンターの椅子に腰掛けて、ミノルは頭の後ろで手を組んだ。  ここに来てからのアカリは、ひたすらに出汁と格闘している。鰹節の削り方、昆布の鋏の入れ方、基礎からニハチがしっかりと指導しているのである。 「当たり前です。おいしい蕎麦は出汁が肝心。まずは基本のつゆが作れるようにならなければ、蕎麦打ちなどとてもとても」
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