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 それでも最初の頃よりはずいぶんと様になっているようで、割烹着が板に付いてきたというものだ。  アカリは真剣な表情で鍋とにらめっこをしながら、傍らで鰹節をすり始めた。ふつふつとお湯が煮立ち、中で広がった昆布がゆらゆらと揺れている。合わせ出汁、という出汁があることをアカリはこの店で初めて知った。  ――いいですか。鰹節はすり立てが一番です。  ニハチはどんぐり眼に力を入れてそう言ったものだ。  ――出汁はスピードが命。急いで、でも、丁寧に、が基本ですよ。  そう言われたものだから、前回は火を止める前に鰹節を入れてしまい、ずいぶんと怒られた。だから今回はしっかりとそのことを頭に置いて作業をする。 「今だ!」  沸騰する直前で火を止め、その中にすり立ての鰹節をどっさりと入れた。出汁の香りが、一気に店内に広がった。 「いいねえ。今日は成功なんじゃねえの」 「いえ」  ニハチはにんまりと笑う。 「失敗です」  大きな水音と共に、アカリの絶望的な声が厨房に響いた。ミノルは身を乗り出して、厨房の中をのぞき込む。 「あー、こりゃ……」  お湯の中にぷかぷかと浮いているのは、綺麗に広がった鰹節の花、と、鰹節の削り器。 「あれか、お嬢ちゃんは、その……」 「こういう人なんですよ」  ニハチがおもしろそうに囁き、すかさずまなじりをつり上げる。 「ぼーっとしない! はやく引き上げなさい。大事な道具ですよ!」 「はい!」  鋭く指摘するニハチを、ミノルはにやりと一瞥する。 「ずいぶんと楽しそうじゃねえの、ニハッちゃん」 「とんでもない。困っているんですよ、これでも」  肩を竦めるニハチは、やはりどことなく楽しそうである。ミノルは満足そうにうなずいた。
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