帰郷

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 その親友というのが、この写真に写っている兎川七菜(とがわなな)である。 「彼女はもうこの世にいないんだ……」  実感がまだなくて、不思議な感じがする。  七奈の訃報を聞いたのは、深夜だった。  たまたま夜更かししていたところにメールが着信した。何気なく中を読んだ私は、衝撃を受けた。 『七奈の母です。七奈が亡くなりました』  七奈のスマホから送ってきたのは、七奈の母親だった。  そこに詳しい死因は書かれていなかった。  亡くなったというだけの簡素な内容に、娘を亡くした母親の悲しみと苦しみが感じ取れた。 「おばさん、大丈夫かな……」  遊びに行くとおやつや軽食を出してくれて、下校時や帰宅時に車で送ってくれた。随分とお世話になった優しいおばさんだった。  死因はなんなのか。最後の様子はどうだったのか。  それ以前に、七奈がどのような生活を送っていたのか、何も知らない私は、どうしても知りたくなって会いに行くことにした。  気落ちしている母親にどれだけ寄り添えるか分からないが、直接会うことで、少しでも元気づけてあげたいとの想いもあった。
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