帰郷

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 見ているだけでも不愉快だった出来事を忘れようと窓の外に目をやると、崖下に大きな川が見えた。表彰されるきっかけとなった「真賀月川」である。  ゆったりした流れに見えるが、V字型に深まった川底へ近づくにつれ、流れがとても速くなって危険になる。数年に一度は、犠牲者が出ることで有名な魔の川だ。  六年の夏休みに、二人の友人とこの川へ遊びにきた。そこで溺れながら流されていく女性を発見した私たちは、大人たちに知らせるために走った。  幸い、救助が早くて女性は一命を取り留めることができた。  そのことから、勇気ある子供たちとして消防に表彰されたのだ。この記念写真はその時のものである。  左から、兎川七奈(とがわなな)、私星降市留(ほしふりいちる)十輪都鶴(とわつづる)、そして唯一の男子、福籠彩人(ふくごもりあやと)。  私は生真面目に、七奈は笑顔で、都鶴は緊張した顔で、福籠彩人は真剣な顔で写っている。それぞれの個性がちゃんと出ている。  福籠彩人は、私たちと一緒にいたのではなく、たまたま近くで釣りをしていて、私たちの騒ぐ声に気付いて竿を放り出して駆けつけた。 『見つけたのは私たちなのに、ちゃっかり表彰されて図々しい』と七奈が大きな目をクリクリと激しく動かして腹を立てた。そんなことも、今となっては懐かしい思い出だ。  都鶴は、こんな時でも白いタオルを首に掛けて、両端を胸元に垂らしていた。  カメラマンから『そのタオルを外して』と言われても、頑なに拒否した。外す外さないで軽く揉めた。
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