221人が本棚に入れています
本棚に追加
薄暗い山の中をまたそぞろ歩く。落ち葉を踏みしめる度、カサ、カサ、と乾いた音が立つ。
「どこまで行くの?」
「まだまだ、知りたいことがあるんだろ?」
二人が振り向いて不気味な笑みを浮かべる。しかし、本当の恐怖は真顔になってからで、その時こそ本番なのだろう。
脅しに屈していられない。聞きたいことは沢山ある。私は、この村で彼らが関わったすべての真実を知りたい。
さらに奥まで進んでいく。せっかく乾いたのに、また全身が汗ばんだ。
「他にもたくさんの人が亡くなっている。それも関係しているのか、教えてよ」
「やめときゃいいのに、さらに首を突っ込むんだ。知って後悔するなよ」
これは聞いてもよいという合図だろうと、勝手に解釈する。
「ウサギ小屋で死んでいた、一ノ関新治君についてはどうなの? あれもあなたたちがやったの?」
「そうだ」
「やっぱり!」
改めて聞くとショックである。
「最初は殺すつもりじゃなかった。あいつが僕たちを脅して問い詰めようと、家から刃物を持ちだして僕を呼び出してきた。そこを返り討ちにして、結果的にああなった」
「それって、馬園倉重さんのことで、何か感づいていたってこと? つまり、口封じしたってことよね?」
陽向が振り向いていきなり叫んだ。
「それだけじゃない!」
「陽向ちゃん……」
「あいつは、威風お兄ちゃんをそそのかして木に登らせたの! 腐った木にね! その報復でもあるんだから!」
「それは知らなかった」
「市留さんのせいでもあるんだからね!」
突然、怒りの矛先を向けられる。
「どういうこと?」
「威風お兄ちゃんは、市留さんの気を引こうとして無茶をしたの!」
異常な怒り方。逆恨みで私を殺すつもりだったと知ってゾッとする。
「今はもう、市留さんのことを恨んでいないから安心して。あくまでも、悪いのは一ノ関新治だから」
「……」
全然喜べない。
「馬園倉重さんの骨を掘り出したのも、あなたたちなんでしょ?」
「警察が見つけたら厄介なんで、掘り出してよそに移した」
「どこに隠したの?」
「枯れ井戸に投げ捨てたよ」
スマホもそこにあると直感した。
早耶人がニヤリと笑う。
「さっきから不思議に思わない?」
「え?」
「僕たちがペラペラと犯行を告白していること」
「贖罪の気持ちからじゃないの?」
「ハハハ! まさか」
早耶人が大口を開けて笑った。
私の体が汗ばむ。暑さによる汗じゃない。恐怖に直面した時に出る嫌な汗だ。
私の本能が警告している。これ以上深入りすると、本気で取り返しのつかない事態に陥るだろうと。
「君には僕らの犯行を知られてもいいと思ったからさ。だから話した。まだまだ話し足りないぐらいだ」
「どうして私には知られてもいいの?」
「君に知られても、犯行の発覚にならないからさ」
「私を殺す気?」
二人は、足を止めると振り向いた。
目に殺意が浮かんでいる。冷酷で冷淡で、人の気持ちを逆なでする嫌な視線を浴びせてくる。
「ここで私を殺したら、間違いなく足が付くわよ」
「フ……」
脅しても無反応。強固な殺意は何を言われても揺るがない。
犯行をペラペラ喋る理由は、私を生かして帰す気がないから。それなら、この際全部聞き出してやる。
ポケットの中に隠したスマートフォンで、今までの会話を全て録音している。いざとなったら、これで脅して犯行を断念させるつもりだ。
最初のコメントを投稿しよう!