呪縛

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 薄暗い山の中をまたそぞろ歩く。落ち葉を踏みしめる度、カサ、カサ、と乾いた音が立つ。 「どこまで行くの?」 「まだまだ、知りたいことがあるんだろ?」  二人が振り向いて不気味な笑みを浮かべる。しかし、本当の恐怖は真顔になってからで、その時こそ本番なのだろう。  脅しに屈していられない。聞きたいことは沢山ある。私は、この村で彼らが関わったすべての真実を知りたい。  さらに奥まで進んでいく。せっかく乾いたのに、また全身が汗ばんだ。 「他にもたくさんの人が亡くなっている。それも関係しているのか、教えてよ」 「やめときゃいいのに、さらに首を突っ込むんだ。知って後悔するなよ」  これは聞いてもよいという合図だろうと、勝手に解釈する。 「ウサギ小屋で死んでいた、一ノ関新治君についてはどうなの? あれもあなたたちがやったの?」 「そうだ」 「やっぱり!」  改めて聞くとショックである。 「最初は殺すつもりじゃなかった。あいつが僕たちを脅して問い詰めようと、家から刃物を持ちだして僕を呼び出してきた。そこを返り討ちにして、結果的にああなった」 「それって、馬園倉重さんのことで、何か感づいていたってこと? つまり、口封じしたってことよね?」  陽向が振り向いていきなり叫んだ。 「それだけじゃない!」 「陽向ちゃん……」 「あいつは、威風お兄ちゃんをそそのかして木に登らせたの! 腐った木にね! その報復でもあるんだから!」 「それは知らなかった」 「市留さんのせいでもあるんだからね!」  突然、怒りの矛先を向けられる。 「どういうこと?」 「威風お兄ちゃんは、市留さんの気を引こうとして無茶をしたの!」  異常な怒り方。逆恨みで私を殺すつもりだったと知ってゾッとする。 「今はもう、市留さんのことを恨んでいないから安心して。あくまでも、悪いのは一ノ関新治だから」 「……」  全然喜べない。 「馬園倉重さんの骨を掘り出したのも、あなたたちなんでしょ?」 「警察が見つけたら厄介なんで、掘り出してよそに移した」 「どこに隠したの?」 「枯れ井戸に投げ捨てたよ」  スマホもそこにあると直感した。  早耶人がニヤリと笑う。 「さっきから不思議に思わない?」 「え?」 「僕たちがペラペラと犯行を告白していること」 「贖罪の気持ちからじゃないの?」 「ハハハ! まさか」  早耶人が大口を開けて笑った。  私の体が汗ばむ。暑さによる汗じゃない。恐怖に直面した時に出る嫌な汗だ。  私の本能が警告している。これ以上深入りすると、本気で取り返しのつかない事態に陥るだろうと。 「君には僕らの犯行を知られてもいいと思ったからさ。だから話した。まだまだ話し足りないぐらいだ」 「どうして私には知られてもいいの?」 「君に知られても、犯行の発覚にならないからさ」 「私を殺す気?」  二人は、足を止めると振り向いた。  目に殺意が浮かんでいる。冷酷で冷淡で、人の気持ちを逆なでする嫌な視線を浴びせてくる。 「ここで私を殺したら、間違いなく足が付くわよ」 「フ……」  脅しても無反応。強固な殺意は何を言われても揺るがない。  犯行をペラペラ喋る理由は、私を生かして帰す気がないから。それなら、この際全部聞き出してやる。  ポケットの中に隠したスマートフォンで、今までの会話を全て録音している。いざとなったら、これで脅して犯行を断念させるつもりだ。
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