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機転に感謝するとともに、犯人としてずっと疑っていたことを謝罪した。
「私、先生のことを疑っていました。ごめんなさい」
「気にするな」
蛇石先生は、特に驚きも怒りもしないで謝罪を受け入れてくれた。
「怒らないんですか?」
「君が僕を疑っている限り、君の身は安全だろうと思ったから、わざと疑われる行動を取っていた。だから疑って良かったんだよ」
「そうだったんですか!」
疑われるよう、わざと仕向けていたことに心底驚いた。
「それって、いつからですか?」
「君が学校に来た時から。あの場で、これから犯人が動くだろうと予想した。僕の家まで福籠早耶人と一緒に来ただろ? 彼と行動を共にしていたことが気になって、毎日学校に出ていた。行けない時は、出勤の先生に電話で状況を聞いていた」
保健室で怪しい行動を取ったこと。いつも職員室にいたこと。出勤の先生に電話で報告させていたこと。全てが計算上の行動だったというわけだ。
「馬園倉重さんの骨のことは?」
「あれは本当に知らなかった。君の言ったことが本当なら、犯人が掘り出してどこかに隠したんだろうと思った」
蛇石先生は蛇石先生で、私を疑っていたのだろう。
「前々から福籠早耶人が怪しいと目を付けていたんだが、証拠がなかった。君が骨について騒いだ日、あの二人が来ていたと他の先生から聞いて確信した。骨を移動したのは彼らだと。そんな中、君が福籠早耶人と玉鉾陽向と出歩いているところを目撃して、こっそりと後をつけた」
「気が付きませんでした」
「話に夢中だったから。あの二人が君を殺すためのナイフやロープを取り出したら阻止しようと見ていたんだが、取り出したのがエアゾール噴霧器で、思わぬ行動に様子見してしまった。遅れて本当に申し訳ない」
「先生が謝らなくても。あの場面に入ってきたら、私たち二人共やられていたかもしれないんですから。助かったことは奇跡です」
「福籠早耶人は、せっかく大学で知を学んでも、人類の進歩や人助けじゃなくて殺人に使うんだから、マッドサイエンティストの卵だ」
「彼について、詳しいですね」
「何年も事件について調べていたから。生徒たちのことは、卒業後も全員追っている」
「今迄ずっと事件のことを⁉」
「異動を拒否して、真賀月小学校に長く居座っていた理由がそれだ。僕がいなくなったら、きっと誰も調べないだろう。そうなれば、事件は永遠に未解決のままで終わってしまう。だけど、それもそろそろ限界が近づいていた。来年度の異動はいよいよ免れない。今年が最後のチャンスだった。馬園倉重さんの骨が消えたと君から聞いて、犯人は近くにいると信じていた自分は正しかったと思ったよ。ただ、学年が違うあの二人にたどり着くまで、随分と遠回りしてしまった」
ものすごい執念に舌を巻く。
「あの、本当に大丈夫なので、そろそろ降ろしてください」
ようやく地面に降ろされた。
「アイタタタ……」
全身に痛みが走ってよろけた。蛇石先生に体を支えられる。
「無理するな。意識がないまま倒れたから、ダメージが大きい」
「はい」
自分の足で立つと、ポケットのスマートフォンを取り出した。
「持ち去られなくて良かった。……あ! 彼らとの会話を録音していたのに、データが消されている! 大事な証拠なのに!」
「警察なら復旧可能だろう」
「そうですね。このまま警察署に持ち込みます」
「同行するよ」
一緒に病院へ行き、怪我の治療を受けた。暴行の証拠になる診断書を貰い、警察本部まで出向いて、一番偉そうな立場の人に直接訴えた。そのかいあって警察が動き、福籠早耶人と玉鉾陽向はほどなく逮捕された。
先生の努力が実を結び、私の無謀で捨て身の行動は、彼らを捕まえる一助となった。
膨大な罪を犯した二人の裁判は、立件から結審まで数年を要するだろうけど、これだけはハッキリと分かっている。死刑であれ懲役刑であれ、二度と塀の外に出てくることはない。それだけの罪を犯している。
真賀月村で長年に渡って発生した数々の未解決事件。そのほとんどが解決に導かれ、ネットで「禍憑村の奇跡」と呼ばれ、様々な配信者のチャンネルで取り上げられ世間に広まった。
オカッピとルトルトのスマートフォンは、枯れ井戸の底から馬園倉重の骨と共に見つかった。そこに残されていた最後の動画が、友人たちの手で編集投稿されると、ニュースにも取り上げられるほどバズった。
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