呪縛

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◇  私と都鶴は、提灯を手にして夜の墓地に来ていた。  兎川七奈の墓前で、犯人が捕まったことを報告するためだ。 「七奈、あなたを殺した福籠早耶人と玉鉾陽向は捕まりました。どうか安らかに眠って下さい」  二人で手を合わせて黙とうする。  ここまでこれて、本当に良かった。 『呪いの子』は、都鶴ではなくて、福籠早耶人と玉鉾陽向だった。彼らこそ、自分たちが否定した村の因習によって、がんじがらめに捕らわれた『呪いの子』であったのだ。  都鶴は、毒からすっかり回復している。  早耶人たちは、宿坊の毒も自分たちが盛ったと警察に認めている。スタッフの牛迫と陽向が仲良くて、宿泊部屋を聞き出して忍び込んだそうだ。窓を開けたのは牛迫だったのだが、目的を知らなかったとして罪に問われなかった。  目を開けると、この夏最後の蛍が目の前を飛んでいた。  私は、四人で映った写真を取り出した。私たちは、写真と同じようにずっと四人一緒だ。これまでも、これからも。この写真は、四人の友情の証である。 「あの世で彩人君と再会できているかな?」 「そうだといいね」  いろいろあったせいで、この頃に戻りたいとは思わないが、流した汗が輝く素敵な日々は大切な思い出だ。 「帰ろうか」 「うん」  足元を照らす提灯の明りを頼りに歩く。  私は、心の中に生じていたある想いを都鶴に打ち明けた。 「私ね、本当は彩人君に憧れていたのかもしれない」  だから、再会が嬉しくて、彩人だと固く信じてキスしたのだ。残念ながらそれは彩人じゃなくて早耶人だったわけで、私の淡い恋心は、見事に裏切られ、傷つけられてしまった。 「へえー。でも分かる。格好良いし、謎めいているところが、また素敵だったもんね」 「七奈も、あの頃から心のどこかで憧れていたのかな? 気になる存在だからこそ、反発して悪口を言っていたのかな」 「そうかもね。……っていうか、クラス女子のほとんどは、彩人君を好きだったと思うよ」 「それは、知らなかった」 「私、市留と彩人君はお似合いだと思っていた。クラスのマドンナとプリンスだなーって思っていたから」 「えー、やだー、もう! 恥ずかしいからやめて!」  都鶴が、私と彼をそのような目で見ていたとは思わなかった。  都鶴は、ちょっとだけ悲しそうになる。 「でも、この村で長い間続いた因習は、とても根深い。兎川家と福籠家の結婚は、障害が多くて難しかったと思う。いっその事、過去に接点がない家の方が良かったんだよ。そういう意味でも、市留はお似合いだったと思う」 「そんなことを言ったら、七奈が可哀そう」 「ごめん。言い過ぎたね。七奈! 聞いていたら許して!」  天川が広がる夏の夜空に向かって、都鶴は叫んだ。  星空を眺めていると、突如、人恋しくなった。 「あーあ、私も彼氏が欲しいなあ」 「私も欲しい。東京に行けば、出会いってある?」 「あるんじゃない? 何と言っても、人が多いもの」 「そこで新しい出会いが期待できるなら、上京しようかな」 「私の住む町においでよ。下町で暮らしやすいよ。でも、ちょっとうるさいかな。都電が近くを走っていて、踏切の音がいつもしていて、ホームのアナウンスもすっごい聴こえるんだ。あと、夜中でも酔っ払いが外で騒いでいる」 「うわー、慣れるかな?」  十輪家は山の一軒家なので、聞いたことのない騒音だらけの都会にきっとビックリするだろう。  私たちは、将来の夢について夜通し語り合った。
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