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夜通しで、8匹の出産に立ち会ったのだけれども、残念ながら、1匹は死産だった。僕は埋めてくる係に任命されたので、早朝スコップを片手に裏山へ。
先代まではちゃんと手入れしていたらしいけど、もう時間も手も足りなくて無理ってことで、今はほったらかし状態の山って言ってた。
価値があるのかどーかわからないけど、山持ってるって何かちょっと、かっこいいかも。ケンちゃん、羨ましいなー、なんて思ったりして。
どこでもいいよ、とは言われたけれど、果たしてどこがよいものか。
線香をあげにくることはないけれど、どこ?って聞かれたら、答えられるようにヒノキの木の下に埋めようと思う。
そうそう、狸とかに漁られないよう、少し深めに掘るように言われた。
悲しいというか、残念でならない。基本、2か月でうちから子犬は去って行くわけだけど、この2か月の楽しみを奪われてしまった感がある。いや、まぁ、あと7匹、元気なコたちがいるんだけどね。
戻ろうと腰を上げた時、隣の杉の木の付近にちょっと違和感を感じた。
近づいてみると何かの動物の遺体。腐乱の状態は過ぎていて、崩れた骨に毛と皮の一部が付いている。
大きさから想像するに猫だろうか。
「う~ん、まぁ、見て見ぬ振りもなんだしね」
貴重な時間を仕事につながらないことに費やすわけで、言い訳がましくひとりごとを呟きながら、もうひとつ穴を掘ってみた。
この山の中だけでも、毎日たくさんの生死が、あるんだろうなって思いながら。猪とか鹿とか狸とか兎とか、鳥に猫に鼠に、虫なんてあげたらきりがないよね。食べたり、食べられたり。生れたり、死んだり。
ここにきて、もうすぐ一年になるけど、以前より自分の命がちょっと重くなった気がする。
犬達が自分を必要としてくれるからかな。給料は時給計算できないぐらいに格安だけど、ご飯だけは毎日、お腹いっぱい、食べてるからかね。
「おーい、終わった?」
ケンちゃんの声だった。
「遅いから、見に来た」
「ごめーん、なんかちょっと他の骨、見つけちゃって埋めてたところ」
「は? 何の骨?」
「いや、よくわからないけど。骨と皮になってたからさ」
「ふーん、まぁいーけど。終わったなら、戻るよ」
心配して迎えに来たのかな。そんなに時間かかったかな? 埋めた箇所を踏み固めて、とりあえず作業終了です。
ケンちゃんはスギやヒノキの木を見上げていた。いい感じに育ったけど、どうすっかなー、なんて言っている。
今なら、二人きりだし、ずっと前から気になっていたことを聞いてみた。
「ねぇ、あの時の男って、ここに埋まってたりする?」
ここを確認しておかないと、二人だけの秘密にならない気がした。ケンちゃん1人の秘密じゃないか。
「・・・・」
何も応えてくれない。自分の方を見てもくれなかった。
帰るよって、囁かれて、山から下りていく途中、ケンちゃんは後ろに続く自分を振り返ることなく、言葉をつないだ。
「親父がここ始めてから、もう30年以上だからなぁ。この山に、どんだけ埋めてきたかな」
「それは犬の話?」
ケンちゃんは自分の問いには応えてくれない。
「昔は今以上に、バカが多くてさ。わざわざ、うちに病気のとか老犬とか、捨てに来る奴がいた」
ああ、だから、出入口、門の所に防犯カメラがあるわけね。
「ハスキーのブームが終わった頃も、酷かったな。返品したいって言ってきた奴がいたりして」
定期的にくる生き物ブーム、必ず後で、どこかで、ちょっとした悲劇がおこるって聴いた。
「バカな犬なんていねーよ。バカな飼い主が溢れてるんだよ」
出た、ケンちゃんの十八番。
くだらない『資格』が大好きな国なのに、『飼い主』になるのに『親』になるのに、ろくに勉強しねーのはどういうわけだ? ってケンちゃんは多頭飼いや、虐待のニュースを見るたびによく怒っている。
不機嫌にさせてしまって、悪かったなぁと思う。聞かなきゃよかったね。
これではいかんね、話題を変えようと、もう一度、口をはさんでみる。
「ケンちゃん、お願いがあるんだけどさ、聞いてくれる?」
「金は貸さねー」
「違う違う。そんなんじゃない。毎日、働いてるだけだから、金、使わないから大丈夫」
他に何の願いがあるんだよって、疑り深そうな目で自分を見る。
「何?」
嫌そうな声を出された。なんであろうと聞いてくれそうな雰囲気じゃない。言うタイミング、失敗したかも。
「えーと、ねぇ、自分、死んだら、ここに埋めてほしいなー。なんてダメかね?」
「アホ」
即答でした。
「いやぁ、自分、最後、行くところないし。ここなら落ち着くなーと思って」
いや、別に死後の世界とか信じてるわけじゃないけど、何かこう、上手く言葉にできないけれど、ここならゆっくりできそうな気がして。
「アホ・・・保険に入れ。受取人は俺で。永代供養料もらわねーとな」
裏山から戻ってくると、スタッフのハインさんが手を振ってるのが見えた。
何か叫んでいる。
「なにやってるー!? しごとおわらないよー!!」
朝っぱらから大きな声で、怒られた。
~おわり~
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