一休さん

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「一休さん、一休さん。教えてください。健くんの好きな人は誰ですか?」  4人の女の子が一斉に百円玉を抑える指に力を込める。  自分のすぐ上に乗せた指から、それまでとは違う圧力を感じ、私は横目で沙希を見た。沙希、もしズルしたら、許さない。  小学校の仲良し女子グループ。でも仲が良いのは表面だけで、裏では本人のいないところで悪口を言い合うなんてことは日常茶飯事だ。  でも、それが何か?女子なら、誰でもやっていることじゃなくって?  今、私たちはクラスで流行っている一休さんをやっていた。紙にアイウエオを書いて、霊を呼び出して質問に答えさせるアレだ。  健くんとは、クラスで一番人気のある男の子、佐々木健くんのこと。みんな口には出さないが、健くんのことが気になっている。もちろん私も。  ・・・さ・・・き。 「ふうん。私、なんだ。知らなかったな」  さも興味なさそうといった様子を繕う沙希。思わず口を開きかけた私を、杏果の言葉が遮った。 「一休さん、一休さん。その答えは本当ですか?誰かが無理矢理動かしたんじゃないですか?」 「あ、ダメよ。一休さんのことを信じなきゃ」  一緒にやっていた他のメンバーの詩織が止めるが、百円玉はツツツツツ、と動いて、ある文字の上を何度も行ったり来たりした。  ・・・ひ・・・と・・・や・・・す・・・み。 「ほら、一休さん、怒っちゃったじゃない」  こうなってしまったらもう何を聞いても答えてくれない。一休さんはヘソを曲げやすいのだ。 「・・・覚えてる?沙希。あの頃は楽しかったわね。あんな子供騙しの占いに夢中になって」  あれから10年。杏果も詩織ももういない。 「確か杏果が怒っちゃったわね。今のはインチキだとか言って」 「あなた佐々木くんと付き合ってたんじゃないの?」 「え?違うわ。佐々木くんが付き合ってたのは別の子よ」  フン。相変わらずだ、この女は。私が何も知らないとでも思って? 「みんないなくなったわね」 「でも私たちは一緒よ。たとえ10万年経っても」 「ええ、そのときまで一休み」  私たちは冷凍カプセルのスイッチを入れた。核戦争により、外は放射能で満ちている。それが消えるまで10万年。生き残った僅かな人間はコールドスリープを選んだ。  沙希、馬鹿な女。あんたのカプセルは、10年後にスイッチが切れる。それが10年前にあんたに言いたかった私の言葉。10年後に受け取りなさい。放射能ばかりの世界で絶望とともに彷徨いながら。
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