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もう・・・、限界!
気づいたら新幹線に飛び乗っていた。
遠く、とにかく遠くへ。
私を挟んでいた日常という名のアリジゴクが、時速285キロの後脚で蹴っ飛ばされていく。
私が特に不感症になっている、希望という憂鬱が、光の速さでやって来て、脳内で木霊した。
あとでクレジットカードの引き落とし残高を見て、後悔することは分かりきっているのに、そうせざるを得なかった。
新幹線の駅に着くと、行き先も見ずにどこか行きの電車に乗った。
遠く、とにかく遠くへ。まだ遠くへ。
電車はいくつかの駅で止まり、また走り出し、また止まって、再び走った。
誰か知らない人達が降りて行き、また知らない人達が乗った。
私は知らない誰かの仮面を被り、電車がどこかの駅に着いたときに、無機質に降りた。
外に出て、駅前から伸びる道をまっすぐ歩いた。どこに行くのか当てはなかった。偶然、ブックオフの黄色と青の見慣れた看板を見かけたので、そこに入った。
こんな所に来てまでブックオフだなんて、とも思ったが、それ以上歩く気にもなれなかった。
私はマンガが置いてある棚の前まで行くと、適当に一冊手に取った。あるいはそれは適当でなかったかもしれない。そのマンガは私が子供の頃に好きでよく読んでいたものであったから。自宅に持っていた本は、大人になる前に近所のブックオフに売ってしまっていた。
パラパラと読んでいたら、面白さが蘇ってきて、続けて読んでいった。気づいたら、太陽が西に沈む頃になっていた。
私は一つ、大きなため息を吐くと、手に持っていたマンガを棚に戻し、店を出た。
通りでタクシーを拾うと、新幹線の駅まで行って欲しいと頼んだ。
駅に着き、クレジットカードで料金を払った頃には、日はすっかり沈み、夜の帳が街を覆っていた。
帰りが遅くなると思ったが、大丈夫と思い直した。大丈夫。「のぞみ」がある。
クレジットカードの引き落としも、今月は大きな買い物をしなければ大丈夫だ。
日付が変わる前に地元の駅に着くと、駅前の駐車場に停めてあった自家用車に、疲れた体をすべり込ませた。
いつもの国道の帰り道。しばらく車を走らせると、黄色と青の看板のブックオフが見えてきた。
自宅は、もうすぐそこだった。
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