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『ううん。そんなことないよ? ……実奈帆ちゃんは今日も上手に演奏していたね。すごいよ』
「いやいやわたしなんてまだまだ……」とわたしは首を振る。「ハイB《ベー》も出せんしまだまだやわいね。ほんに。もっともっと練習せな……夏のコンクールには間に合わせんと」
今年の夏、演奏するのは、『ローマの祭』。レスピーギの有名な曲だ。金管泣かせのハイトーンが続きまくる難曲でもある。けども、わたしは、やりたい。
前を見据え、わたしは、歩いた。「……けいくんがおるさけ、わたし、頑張れるげよ。ずぅっとずぅっと一緒におってね」
影はわたしに答えた。『うん。ずぅっとずぅっと一緒だよ』
* * *
「おまえ。……おれたちのこと、あいつにゲロったのか」
帰宅するなり兄貴に言われ、辟易する。「だよ? あの子、明らかに呪われてるじゃない。兄貴にだって分かるだろう?」
ネクタイを緩めながら兄貴・総司は、「……あいつがみすみすおれたちの言うことを信じるとは思えないが……」
「信じる信じないは別として。ぼくたちは、あの子を守り抜かなきゃ。――だって『神様』なんだし」
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