『ワガママ♡プリンセス』

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「ジョセフィーヌはどこ!?ジョセフィーヌを呼んでちょうだい!!」 エキドニア王国の王女アナスタシアは宮廷に響き渡る声で叫んだ。 王女は激怒していた。 ジョセフィーヌと言うのはアナスタシアに仕えているメイド長であり、アナスタシアの教育係でもある。 そのアナスタシアは今年で7歳になる聡明で愛らしい王女であった。 最初の子供であるため国王に大変に可愛がられていた。 そのせいか、わがままな娘に育っていた。 そして、そのわがままぶりは国中に知れ渡るほどであった。 今回の騒動もそのわがまま故のものであろう。 今は食事の時間。 宮廷料理が運びこまれ広々とした大テーブルの上に次々と並べられた。 王女はテーブルの上の料理を指しこう続けた。 「ウズラのソテーは?鳥のもも肉は?アンチョビ、トリュフ、ソーセージやハムはどうしたの?!」 どうやら今回の料理のメニューが気に入らなかったようだ。 料理に目をやると肉料理は1つもなく野菜のみの料理になっていた。 「こんな地味な料理見たくないわ!早く片付けてちょうだい!!」 王女の怒りは収まらない。 メイドの1人が深々と頭を下げ 「ただいまメイド長をお呼びしますので、しばらくお待ちください」 と答えた。 王女は腕を組みプンとほっぺたを膨らませながらドスンと腰を下ろしてメイド長を待った。 音楽が鳴り響き、劇団の一行が宮廷の食事の間に入ってきた。 王様の提案で王女が1人で退屈することなく食事ができるようにと、食事中に出し物をすることになっていた。 演劇やら音楽やらと曲芸やらと国1番の者を呼び寄せ披露させていた。 今回は演劇と言うことでそれを披露することになっていた。 本来なら食事が運び込まれる前に劇が始まるはずだったのだが、道具が1つ紛失したと言うことで上演が遅れていた。 劇は始まったが王女は見向きもせずに宮廷の図書室から持って来た大きな本を開いた。 そこには天使だの妖精だのの絵が描かれてる図鑑であり王女のお気に入りであった。 しかし、目の前に置かれた料理を見るや否や王女の怒りが爆発した。 王女は椅子の上に立ち上がり腕を振り上げて叫んだ。 「これってほうれん草の料理じゃない?! なんでほうれん草何か出すのよ!! 大嫌いって言ったじゃない! ほうれん草なんか嫌い! 嫌い嫌い嫌い!! 何で嫌いなもの食べさせようとするの? なんで我慢して食べないといけないの?! お母様も嫌い! 皆んな嫌い! 皆んないなくなっちゃえばいいのに!!」 (お母様は私のことが嫌いだから意地悪するんだ!) 王女は食卓の椅子から飛び降りると宮廷の中庭にある大きな広場のほうに走っていってしまった。 メイドが2-3人、王女の後を追いかけたが、広場は広く見失ってしまった。 「まったく、これで何回目かしらねアナスタシア様が逃げ出したのは。わがままもいい加減にしてほしいわね」 「しっ!聞かれるわよ。それにしてもメイド長はどこいったのかしら?」 「新人のメイドも1人いないんだけど‥」 王女の嫌いな料理達がテーブルの上に取り残されていた。 それより少し前の話。 王妃の間。 「ジョセフィーヌを呼んでちょうだい!」 イザベラ王妃は、メイド長を呼びつけた。 ジョセフィーヌと呼ばれたそのメイド長は王妃の前で恭しくお辞儀をした。 王妃はメイド長に言った。 「知っての通り、娘のアナスタシアはわがままが過ぎます。 このままでは将来が不安です。 昨日も叱ったばかりなのに先程もまた同じわがままを言ったので叱りつけてきたところです。 ジョセフィーヌ、何とかあの子をまともな王女に教育して貰えないでしょうか」 王妃はそう言うと手に持っているペンダントをじっと見つめた。 そのペンダントは王女が6歳になった誕生日に王妃がプレゼントしたペンダントだった。 確かそれはいつも王女の首にかけられているハズのものだった。 「ご期待に添えるかどうかわかりませんがやってみます」 メイド長はそう言うと王妃に挨拶をし王妃の間から出て行った。 そのままメイド長は宮廷の図書室に入って行った。 (『アナスタシア!わがまま言う子は嫌いですよ!』) (お母様‥) 王女は今朝の王妃の言葉を思い出していた。 いつもの優しいお母様ではない、険しい顔をしたお母様だった。 王女は食事の間から出ると広場にある庭園の茂みに隠れた。 嫌なことがあるといつもここに逃げてくるのだ。 ここは落ち着く、王女の癒しの場所だった。 噴水の水の輝き、小鳥のさえずり、頬を撫でる風の感触、全てが王女の心を癒してくれた。 ここにいると妖精達に会えそうな気がする、そんな雰囲気が王女のお気に入りだった。 いつものように庭の茂みにある大きな石の上に腰かけるとため息をついた。 胸の、今朝まであったペンダントの位置に手を置くと、その大きな瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちてきた。 『これは私があなたへの愛の証としてプレゼントします。お誕生日おめでとう、かわいい私の娘』 (お母様は私のことが嫌いなんだ‥) お母様にペンダントを取り上げられたことで王女はそう思った。 ガサッ‥。 王女は茂みの中に誰かいるのに気がついた。 近づいてみると、黒い小さな人影のようなものが見える。 王女は恐る恐る声をかけた。 「誰かいるの?」 小さな影はビクッとしてこちらを振り向いた。 よく見るとそれは小さなわら人形のような生き物だった。 背はアナスタシアの腰くらいの高さだろうか。 腰をかがめ、尋ねた。 「あなたは誰?」 「私はほうれん草の妖精です」 妖精が答えた。 「妖精さんなの?!初めまして、私アナスタシア。エキドニア王国の王女よ。」 王女は妖精に会えた喜びで飛び上がりそうになったが、王女らしく両手でスカートの裾を軽く持ち上げ膝を曲げ挨拶をした。 「王女様?!これは失礼いたしました。」 ほうれん草の妖精は恭しくお辞儀をした。 「ここで何をしているの?」 「隠れているのです」 「どうして隠れているの?」 「私は嫌われ者だから隠れているのです」 そう言って妖精は肩を落とした。 (嫌われ者‥) そう聞いて王女は身を硬くした。 「そんなことないわ。そんなことないわよ‥あなた、嫌われてなんかないわ」 王女は急いで否定した。 「じゃあ、王女様は私のことが好きですか?」 王女は黙ってしまった。 「みんな私のこと嫌いだといいます。 だからいつも食べ残され、捨てられます。 大好きなあの子でさえそう言いました。 嫌いと言われたらどうして良いか分かりません。 私がやった事が嫌いならやめます。 でも‥」 と言って少し俯くと、 「私の事が嫌いだったら私をやめなければなりません。 私は、私はどうしたら良いのでしょうか。」 そう言ってポロポロと涙を流し始めた。 慰めようと妖精に手を伸ばし応えた。 「あなたの事、嫌いじゃないわ」 妖精はアナスタシア王女をキッと睨んで言った。 「嘘です。口だけなら何とでも言えます。」 (『わがまま言う子は嫌いです』) 王女はぐっと唇を噛むと、 「じゃあ、食べてみせるから見てなさい。あなたの事嫌いじゃないって教えてあげるから」 そういうと王女は茂みから出て食事の間のほうにスタスタと歩いて行った。 食事の間に入ると王女は言った。 「ほうれん草の料理をここに!!」 ほうれん草の料理がテーブルの上にきれいに並べられた。王女はスプーンを握って目の前の皿にあるスープをすくった。 決心がつかないのか、スプーンが口と皿の間を行ったり来たりする。 唇を噛み目に涙を浮かべている。 メイドの1人が言った。 「そういう時はお鼻をおつまみになってお口に入れるといいんですよ。 私は母からそう教わりました」 目をギュッとつぶり鼻を摘み一気にスープを口の中に入れた。しばらく口をモグモグと動かしていたが意を決っしてゴクリと飲み込んだ。 ふーっ! しばらくして王女は目を見開いた。 「嫌い‥じゃない!私食べれる!」 1杯目、2杯目、3杯目と口の中にスープを放り込む。 「トリュフのスープほどってわけじゃないけど、嫌いには入らない。」 「よかったですね王女様」 メイド長は言った。 「本当に」 姿が見えなかった新人メイドがスカートの裾を払いながら言った。 「あれ?いつの間に。メイド長どこに行ってらしたんですか?アーニャも何処にいたんですか?探したんですよ」 ベテランメイドの1人が驚いて言った。 アーニャと呼ばれた新人メイドはちらっとメイド長を見ると照れ臭そうに笑った。 王女はテーブルの上の料理を全て食べ終えると椅子から飛び降り広場にある庭園の茂みに向かった。 (妖精さんに会って教えてあげよう!) しかしどこを探しても妖精は見つからなかった。 王女が座っていた石の上に一枚の紙が置いてあった。 それには子供の書いたような字でこう書かれていた。 「ありがとう。王女様。」 (‥‥字は教えてあげた方が良さそうね‥) 食事の間での騒動があった頃、アナスタシア王女の父、ヘンリー王は朝からの公務に追われていた。 国内の報告が一通り済んだ頃、従者から王女が食事中に逃げ出したとの報告を受けた。 王は中庭が見える位置に立つと望遠鏡を取り出した。 「この貢ぎ物が役に立ちそうじゃ」 しばらく中庭を眺めていたが 「これは面白い」 と言うと会議を中断させどこかへ行ってしまった。 王女は部屋に戻ると椅子の上に座っているうさぎのぬいぐるみを手に取り話かけた。 「あのね、マリア。 私、隣の国のアンナ王女と喧嘩しちゃったの。 知ってるよねアンナのこと。 だって人形貸してって言ったら貸してくれなかったからケチ!嫌い!って言っちゃたの。 でも本当は嫌いじゃないの。 アンナ、嫌いって言われて傷ついてるかも。 どうやったら仲直り出来るのかしら?」 うさぎは答えた。 「王女様の気持ちを正直に伝えたら宜しいと思います」 「でも素直に謝れない。貸してくれなかったのはアンナだもの」 うさぎはちょっと間を置いて答えた。 「そうですね。 納得出来なかったら理由を聞いてみてはどうでしょうか? 分からないまま我慢して謝るのではなくて」 「んー、それから?」 「それからこう言うのです。 『貸してくれなくて悲しかった。 嫌われてると思った』と。 そうすれば王女様のお優しい心を分かってくれます」 「本当?!」 「きっとそうです」 「うん、わかった!」 顔を赤くして頷いた。 その時メイド長が王女を呼びに来た。 「アナスタシア様、王妃がお呼びです」 王女の顔がパッと明るくなり急いで部屋から出ていった。 メイド室。 メイド長と共に姿が見えなかった新人メイドがきれいに並べて積んである数冊の本を見ながら言った。 「これって全部ファンタジーのお話ですね。妖精が出てくる。 メイド長こういう本も読むんですね。」 「読まないわよ。 全部王女様が好きな本よ。 ちょっと何が好きか知りたくて調べていただけ」 「だからあの話を信じたんですね王女は」 「それよりちゃんと穴埋めてきた?人形は?」 「ちゃんと埋めておきましたよ。人形も戻しておきました。おかげで体中泥だらけですよ。窒息で死にそうになりましたよ。穴掘って地中に隠れて人形劇をやらされるとは思わなかったです。」 メイド長は咳払いをして新人メイドに釘を刺した。 「王女様の前でその話はしないでね〜」 「メイド長、目が怖い‥」 「それにしても啖呵を切ったとはいえ、あの王女様がいきなりほうれん草を食べれるとはね。 ファンタジーの力は絶大ですね」 「だってあれほうれん草じゃないもの」 「え?」 「ちゃんとトリュフのスープと取り替えておきました。 王女様が勝手にほうれん草だと思っていただけよ。 その後はほうれん草と取り替えても食べてたみたいだけど。。。。 子供なんてチョロいもんね」 そう言ってほくそ笑むメイド長だった。 「‥メイド長、なんかわるーい顔になってますよ」 王女の部屋。 王女が出て行った後、男はベットの下から頭を出し様子を伺い誰も居ないと分かると這い出してきた。 「ワシの演技もなかなかじゃったな。 アナスタシアもワシの声とは分からんかったようじゃ。 二番煎じではあるが上手く行って良かった」 男は王冠を正し豪華なマントをパンパンとはたくと泥棒のように爪先を立てピョンピョンと部屋を出て行った。 メイドの1人が部屋から出てきた男の存在に気付き声をかけようとしたが男は走るように去って行ってしまった。 「王様‥?」 次の日、隣国のアンナ王女が遊びに来た。 しばらく2人は口も聞かずにお互いに持ち寄った自分の人形で遊んでいたが、意を決したようにアナスタシア王女がアンナ王女に話しかけた。 「アンナ、このお人形とそのお人形交換していただける?」 アンナ王女はしばらく黙っていたがアナスタシア王女を睨んで、 「嫌!人形は貸さないわ!あなた嫌いだから」 と言った。 いつもなら「私だって嫌い!大嫌い‼︎」と大喧嘩になるところだが、今回は違っていた。 アナスタシア王女はペンダントを握り一呼吸おいてこう言った。 「あなたの事、嫌いじゃないわ。好きよ。 でも一緒に遊ぼうって言ってくれたらもっとあなたの事好きになるかも。」 そう言ってアナスタシア王女はアンナ王女を抱きしめた。 アンナ王女が驚いてアナスタシア王女を見た。 ちょっと俯いて照れ臭そうに言った。 「仕方ないから一緒に遊んであげるわ」 メイド長は楽しそうに遊んでいる2人を後ろから、我が子の成長を見つめる母親のように目を細めて頷いていた。 人形劇の一団の馬車が次の公演を予定している街に向かっていた。 馬車の中では出し物をした劇団員の1人と団長が話をしていた。 「途中で劇が終わってしまったけどアレでよかったんですかね団長。」 「良かったんだよ。 王様に褒められたじゃないか。 なんでも俺たちの劇を見てから王女様のわがままが無くなったんだとか。 何だか分からないけどおかげで褒美もたんまり貰えたし万々歳だ」 「でも我々の演目は、なにかと言うとお尻を丸出しにしてお尻をフリフリするだけの男の子の話ですよ。 何故この話で王女のわがままが治るのでしょう?」 「それはあれよ、 俺の迫真のお尻フリフリの演技が効いたのよ 団長は高速でお尻を振りながら 「‥まあそうだな、 高貴なお方の考える事は俺たちには分からねえな。」 団長は自分の白髪頭を撫でると大声で笑った。 団員達がそう話している後ろで新入りの劇団員が何かを見つけて言った。 「あれ?無くなってた人形がここにある」 袋から一つのワラ人形を取り出した。 (終わり)
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