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あっという間にステージや緞帳、客席が用意され、わたしとチゼルはその最前列に座らされる。
わたしはチゼルに「オークションってなに?」と尋ねた。
「競りのことです。ひとつの商品に対し、それをほしいと思った人が金額を提示して、そのうち最も高額を申し出た人が商品を手に入れることができます」
チゼルは生真面目に説明してくれた。第一印象のとおり、よく言えば真っ直ぐな性格、悪く言うなら機械的な態度。
わたしの知らない言葉をチゼルが説明したということは、どうやらほんとうに夢ではないらしい。
……で、それならここはどこなの?
もしかして、魔法の世界?
現代で普通に暮らしていた少年少女がとつぜん魔法や冒険の世界に迷いこんでしまう展開は、ファンタジー小説のオープニングとしては定石だ。
そんなのフィクションでしかありえないと思っていたけど。
「魔法使かぁ……」
正直、わくわくしちゃうな。これから出品されるのは魔法の杖や空飛ぶ箒だったりして?
予算はいくらまでなら出せるだろうか。三千円、いや五千円……でもこんな機会二度とないかもしれないし、思い切って一万円!
さっき食事代を心配したときよりもよっぽど真剣に、わたしは財布の中身を考えた。
そんなわたしを横目にチゼルがなにか言ったが、その小さな声はエコーがかった大きな声にかき消されてしまった。
「さあさあ。王国名物、女王主催のオークション! まず一品目はこちらぁ!」
司会進行役の召使がぎょうぎょうしく紹介すると、舞台上に赤いワンピースに赤いカチューシャをつけたおかっぱ頭の少女が登場した。
「女王の長女、アンナアンナ!」
「オーッ!」
魔法のアイテムじゃないどころか……人間?
それに長女ってことは、あの子こそが正真正銘の王女――つまりお姫様なのではないだろうか。
「ほら、早く行け」
アンナアンナはまず、その右足を踏み出した。はずみで丸い鼻が真ん中からちょっとずれる。次に左足を前に出したら、右の眉毛がぽろりと落ちた。
なるほど。ほんものの人間じゃなくて、おもちゃの人形なんだ。そりゃそうだよね。
チゼルをつついて「福笑いみたい」と言ったら、しっと静かにするよう注意されてしまった。
アンナアンナが段差につまずき顔からばったりと倒れ、召使があたふたと両側から腕を引っ張る。
起きあがったアンナアンナの顔は、目鼻口がてんでばらばらになってしまっていた。
アンナアンナの九十度傾いた右目が客席のわたしを見た気がしてぎくっとする。
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