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――気のせい?
ふらっと、わたしはお爺さんがドアを開けて待つ店内へ誘いこまれた。
七年前は本棚がきっちり整列していた空間。
今やありとあらゆる雑貨や段ボール箱がぎゅうぎゅうに積みあげられ、書店の面影は完全に消えている。
お店にはわたしとお爺さん以外、誰もいないらしかった。
「あの、おじい」さん、と言いそうになったのを飲みこんで、「じゃなくて、お兄さんは……」と訂正する。
年上の人と初対面で上手くいくコツは、その人の見た目より若い年齢のつもりで接することだ。これはお父さんの会社のバーベキューや、町内会の清掃活動などでおとなと接するうちに学んだ人生経験である。
……とはいえ、「お兄さん」はさすがにやりすぎたかな?
「あはは。まるでおとなみたいな気遣いをする子だねぇ。しかしお兄さんって呼んでもらえる年齢じゃないよ。そうだなぁ。骨董さんと呼んでおくれ」
「骨董さん? ここ、今はアンティーク屋さんなんですか?」
「アンティークと言えば聞こえはいいがね。世界中のがらくたを集めて並べているだけさ。せっかく来たのだから、どれか気に入ったものを選んで持って帰るといい」
会ったばかりで、そんな図々しいことはできっこない。でも骨董さんはどうやら本気で言っている様子だ。
雑多に散らかった店内で、わたしの目を惹きつける物があった。じっと見つめるわたしの視線に気づき、骨董さんは「ああ、それは前のお店の店長さんが譲ってくださった椅子だよ」と教えてくれる。
ああ、そうだ。
お母さんの買い物を待つあいだ、絵本を読んで座っていた椅子。
もうわたしには小さすぎるその椅子に腰かけると、顔もおぼろげなお母さんがすぐそこにいる気がした。
まぶたを閉じれば、場面はわたしの子ども部屋に変わる。
――「莉央、今夜はどのご本にする?」――
なんとなく記憶しているのは、パジャマの黄色いしま模様、お腹の上で広げた絵本、読み聞かせてくれた声のおだやかさ。
――「どれもあきた。おかあさんのおはなしをきかせて!」――
わたしがぐずったら、お母さんは絵本をサイドテーブルに置き、代わりに両手をわたしのお腹に乗せる。色白の手の甲に青い血管が浮かんでいて、その凹凸を触るのが好きだった。
――「むかーし、むかし。お母さんのお祖父ちゃんは世界中を飛びまわる冒険家でした」
「おかあさんのおじいちゃんってことは、わたしのひいおじいちゃん?」
「そうよ。今から話すのは、あの伝説の〈オシマイノクスシハナ〉。曾お祖父ちゃんの最後の冒険」――
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