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22. 心ゆくまで、高め合って
どうせ一人暮らしなのだから、必要最低限のものがあればいいと思っていた。だから、それを買ったのはほとんどノリだったように記憶している。だが今、将吾はその時の自分のノリに感謝した。
間接照明として使える、小さなフロアライト。部屋の主照明は、天井に取り付けられたそっけないシーリングライトだったが、寝る前は部屋の明かりを落とした方が寝付きが良くなると何かで読んで、他の日用品を買いに立ち寄った店でたまたま目についたそれを買った。それがここで大活躍するとは、思ってもみなかった。
ぼんやりとしたオレンジの光の中、ベッドに腰掛けた東堂は自分のスマホに目を落としている。控えめに言って、心臓が口から出そうだ。ただ、1人の男が部屋着でベッドに腰掛けているだけ、それだけなのに、クラクラしそうに色っぽい。
体毛薄いんだな、色白いな、肌綺麗だな……、将吾の頭の中で勝手にいろんな言葉が飛び交う。そしてそれら全ての上に、「触りたい」がドドンと鎮座した。
欲求のままに、手を伸ばす。東堂の手からそっとスマホを取り上げて、ベッドサイドに置いた。隣に腰掛けて、体を傾け、東堂の顔から眼鏡を外す。それもスマホの隣に置き、同時にもう片方の手を東堂の頭の後ろに回して引き寄せて、唇を塞いだ。2人分の体重を受けて微かに軋むベッドの音さえ、どこか淫靡な響きに聞こえる。
「……ん、ッふ……」
4回目となるそれは、これまでのどれより官能的で、激しかった。
後先を考えなかった1回目、我を忘れて仕掛けた2回目、スイッチが入って貪ったけれどお預けを余儀なくされた3回目。そのどれとも明らかに違うのは、もうこれ以上この行為を邪魔するものはないと、お互いが分かっていること。気持ちを重ねてする行為は、今から始まる長い夜の、入り口となるもので。
もう、焦る必要もない。ゆっくりと高めあうように、舌を絡ませる。時折苦しげにまつ毛を震わせる東堂の目も、将吾と同じ欲に煌めいている。ただ黙って受け入れるだけではない、同じ欲を貪る獣の気配があった。
いつしか、お互いの体を手が這い始める。ただ触るのとは違う、明らかに性的な意味合いを帯びた動き。どちらのものともつかない、荒く息を吐く音が寝室に充満する。否応無しに熱が溜まっていく。東堂の指に煽られ、将吾はするりとTシャツの中へ手を差し入れた。
「……っ、ぁ……」
首筋に口づけを落とし、薄い脇腹から上へと肌をなぞれば、頭上から小さく声が降る。その声だけで、大袈裟ではなく達してしまいそうになるほど、将吾には刺激が強かった。熱に酔いしれる東堂の顔は、こうなる前に将吾が知っていたのとはまるで別人のようで。潤んだ瞳を情欲にぎらつかせ、下手をすればこちらが取って食われそうな気配すらある。
「っ、すげ、エロ……」
将吾は思わずうめいた。
食うか、食われるか。舌なめずりしたくなるような、極上の獲物。
——こりゃ、ハマるわけだ……
東堂に執着していたかつての恋敵を思って、将吾は少し同情した。分かりたくもないが、この沼は深そうだと嫌でも予想がつく。
理事長の逮捕が発表される直前、三ツ藤と電話で話したと東堂から聞いた。内容に踏み込むほど野暮ではなかったから、会話の中身までは聞いていないが、2人の関係が正式に終わったと、それだけを東堂から告げられた。あの時は単に自分の事情に巻き込んだ関係者としての事務的な報告だと思っていたが、きっと東堂なりに過去を過去として前へ進もうとしてくれたのだと、今は分かる。そんな健気な一面まで見せられては、もうひとたまりもない。気づいた時には、もうとっくに引き返せなくなっていたのだ。
東堂の素肌はしっとりと熱を帯び、手に吸い付くようで、どれだけ味わっても足りなかった。邪魔に感じ始めたTシャツを脱がせて、自分も脱ぐ。素肌が合わさる感触に、ため息が出た。
そうっとベッドに横たえて、上から覆いかぶさるように覗き込む。もう、逃げ場のない体勢だけれど、東堂の顔には怯えも拒絶も見られない。代わりに、挑発するような眼差しで、艶然と将吾を見上げている。こちらの出方を楽しんでいるようにさえ見えて、その余裕が悔しかった。
「ッ、ふ……ぅぁ、」
その綺麗な顔を乱したくて、感じるところを探していく。女の子とは全く違う、薄くて硬い体なのに、むしゃぶりつきたくなるほどそそられる。皮膚の薄いところは感じやすいと聞いたことがある気がして、鎖骨の下、腋の下と舌を這わせる。その度に東堂はひくりと体を震わせ、熱い吐息をこぼした。
——ここ、も感じんのかな……
胸の真ん中に、桜色に色づいた小さな突起。誘われるように、口に含んだ。
「や、ぁ、あッ……!」
今までとは明らかに違う、色を含んだ声。上目遣いに見上げれば、泣き出しそうに眉を寄せて薄く口を開いた東堂の顔があった。その凶悪なまでのエロさに、将吾の中の何かが弾け飛んだ。舌で転がし、もう片方は指で撫でて、こねて、突いて。東堂は必死で声を堪えようとしているようだけれど、それでも堪えきれずに上がる声が甘くていやらしくて、将吾は夢中になった。
「小野、っ……も、しつこいっ……」
とうとう泣きが入って、将吾がようやく我に返る。散々弄られてすっかり紅く硬く尖ったそこは濡れて光り、見てはいけないもののように淫猥な光景だった。
——あ。
ふと視線を下へ向けた時に視界に入った、ふっくらとした盛り上がり。東堂のそこはしっかり反応していた。どくん、と将吾の中で熱が脈打つ。
「こっちも……脱がせて、いい?」
腰に触れて、聞く。東堂が小さく頷くのを確認して、将吾はハーフパンツのゴムに手をかけた。触れただけでひくんと震えるそこを、下着ごとずるりと下ろして露わにする。
ゴクリ、と自分が唾を飲む音が部屋に響いた気がした。何も身につけていない姿になった東堂は、信じられないほど綺麗で、それでいて血が沸騰しそうなほど生々しいエロティックさがあって。こんなものが、この世にはあるんだな、と意識の片隅で将吾は思った。
いよいよだ、と緊張する。
これまでにしたことのないこと。ベッドサイドに置いておいたローションを手に取り、東堂の腰の下にバスタオルを敷く。
足をそっと開かせれば、なめらかな陰影を描く太腿の奥にひっそりとそこが姿を現した。
なぜ、自分がこんなにも興奮をおぼえるのか、もう将吾は理解することを諦めた。同じ男だとか、そういうことはもうとっくにどうでもよくなっていた。自分と同じ体の構造だと頭では認識できても、体が、心が欲しいと騒ぐ。
傷をつけないように、慎重に指にローションをまとわせて、将吾はそこを拓きにかかった。
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