●出勤

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「すいません、この子ちょっと興奮してるんです。気にしないで下さい」 取りなすように早希が続けると、男は「ふぅん」と素っ気ない態度で、腰を上げた。 「ゼッツ! いつまでガキんちょとだべってんだよ! 花火見たい、って言ったのお前だろ!」 その時、群れの先頭を歩いていた色黒で長髪の男が声を張りあげる。 「はいはい、今、行くって」 ゼッツと呼ばれたサングラスの男は肩をすくめると、「じゃあな、米倉翔吾ファン」と手を振り、美月の前から歩き去っていった。 「……アンタ、客かどうかっての、ちゃんと理解した上で声かけなよ」 男の姿が完全に見えなくなった後、早希は脱力したように座り込むと、深々とため息を洩らした。 「えっ、どういう……」 「あの人、ゼッツ君でしょ。 あんな人に5000円(ゴー)がどうとかって、声掛けんじゃないよ。 見てる、コッチが冷や冷やしたよ」 「待って、姉御。 あのゼッツって呼ばれてた人、そんなヤバい人なんですか?」 「ヤバいとか、そういうレベル超えてるよ」 早希は呼吸を整えると、血走った目を美月に向け、続けて言った。 「あの人、この界隈を仕切ってる半グレだよ。 ヤクザでも距離置いてるような人なのに、そんな人に身体売るような事を言ったらアンタ、『バカにしてんのか』ってキレられて、どっかに埋められてたかもだよ」
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