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「すいません、この子ちょっと興奮してるんです。気にしないで下さい」
取りなすように早希が続けると、男は「ふぅん」と素っ気ない態度で、腰を上げた。
「ゼッツ! いつまでガキんちょとだべってんだよ!
花火見たい、って言ったのお前だろ!」
その時、群れの先頭を歩いていた色黒で長髪の男が声を張りあげる。
「はいはい、今、行くって」
ゼッツと呼ばれたサングラスの男は肩をすくめると、「じゃあな、米倉翔吾ファン」と手を振り、美月の前から歩き去っていった。
「……アンタ、客かどうかっての、ちゃんと理解した上で声かけなよ」
男の姿が完全に見えなくなった後、早希は脱力したように座り込むと、深々とため息を洩らした。
「えっ、どういう……」
「あの人、ゼッツ君でしょ。
あんな人に5000円がどうとかって、声掛けんじゃないよ。
見てる、コッチが冷や冷やしたよ」
「待って、姉御。
あのゼッツって呼ばれてた人、そんなヤバい人なんですか?」
「ヤバいとか、そういうレベル超えてるよ」
早希は呼吸を整えると、血走った目を美月に向け、続けて言った。
「あの人、この界隈を仕切ってる半グレだよ。
ヤクザでも距離置いてるような人なのに、そんな人に身体売るような事を言ったらアンタ、『バカにしてんのか』ってキレられて、どっかに埋められてたかもだよ」
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