218人が本棚に入れています
本棚に追加
ブティックホテルを出ると、質量すら感じる、夏の熱気を帯びた陽光が美月を襲った。
臨時収入が入った美月は、取り敢えずショッピングモールにあるスターバックスに入ると、クリームを増量したフラペチーノを注文する。
汗臭さを悟られないよう、壁際の一人がけの席に座ると、美月はフラペチーノを一口二口飲みながら、店内に入ってくる客を無目的に観察した。
──「本当の自分」をさらけ出せる男と、果たしてアタシは一生の内に出会う事が出来るだろうか。
店内に入ってくる男を見つめながら、美月はふと思う。
思えば、自分にとって「男」とは、性的搾取の加害者でしかなかった。
父親は、自分の第二次性徴が始まった小学校高学年で、自分の身体を求めてきた。
中学に入ってからは、街の顔役の不良に身体を捧げる事で苛烈なイジメから身を守っていた。
そして、男を騙し、男に騙されの状態を続け、地元にも実家にもいられなくなり、美月がたどり着いたのがこの「松川」という街だ。
風俗街と大衆居酒屋とブティックホテルが乱立し、お世辞にも治安がいいとは言えない街だが、美月は雑然としたこの「松川」という街の雰囲気が好きだった。
今はもう潰れてしまったが、無償で「しらすかけご飯」を振る舞ってくれたり、親身になって美月の相談に乗ってくれた大衆居酒屋の女将がいたりした。
「神待ち」というタグでSNSで客を引くのをやめ、ホテル前で立ちんぼを始めたら、早希のような優しい先輩がいたりと、美月はこの街にいる温かい人達によって心から助けられていた。
最初のコメントを投稿しよう!