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「もし、っすけど、そのお金が手元に残ってれば、こんなトコロで客引く人生とか送る必要無かったんじゃないですか」
「どうだろ?
マトモじゃないから風俗で大金稼いで、そのお金をそのままホストに突っ込んでたから。
実際、今もホームレスしながらホスクラ通いしてるし」
言葉を返せなくなった美月は、視線を早希から手元のスマートフォンに移すと、液晶画面に映し出されているTikTokの動画を無言で見続けた。
先程まで、辺りをオレンジに染め上げていた夕陽は、美月がTikTokの動画に夢中になっている間に、いつしか沈み込んでいた。
目の前を行き交う、帰宅途中のサラリーマン群れにチラチラと視線をやり、コチラに興味を持っていないと判断すると、美月はそっと左手首を指でなぞる。
残土のようにぷっくりと盛り上がった、左手首。
美月は、ふぅ、と小さくため息をつくと、ザラザラとした左手首をしばらく触り続けた。
「姉御」
早希は「はぁい」と、気だるそうに答える。
「姉御の親って、どんな人でした?」
「私と一緒で、風俗やってたよ」
早希は答えると、「そんなの訊いてどうすんの?」と、スマートフォンを操作しながら反問した。
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