触れて

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触れて

男主人のシドは、つい数日前に囚われていた一人の青年を救った。 名前は、エマ。 彼はひどく痩せていて、 白く細い首に革で出来た首輪がついていた。 エマには不思議な力があった。 シドにも、不思議な力があった。 ここに連れてこられたとき、 エマはすぐにその気配に気がついた。 エマはシドに、名前を尋ねた。 いつも、そうしていたから。 主の名前を尋ねる。 そしてその名を呼ぶ。 主はたちまち身体の内側に熱を含み、 情欲に溺れる。 名前を呼んでほしい主たちは エマを囚えて放さなかった。 ”シド様” 名前を呼んだエマの口を、 手のひらで覆った。 じわじわと浮き上がる熱に気がついたからだ。 「お前がやっているのか」 シドを見つめる虚ろな銀色の瞳は、 次の瞬間、大きく見開かれた。 「見えるんだな」 エマの反応を見たシドは、静かに呟いた。 シドの背中から数本の透き通った蛇のような 細長い”何かが”、ゆらゆらと蠢いている。 それはまるで生き物のようで、ゆっくりとエマの 方へ伸びてきた。 エマが目を見開いたままでいると、 それはエマの頬や頭を優しく撫でた。 「気に入ったようだ」 シドが手のひらを離すと、 エマは口を開けたまま固まっていた。 シドは目を細めて、人差し指で エマの顎を下から押して、口を閉じさせた。 「開いてる」 エマは真っ赤になって、 口元を両手で抑えた。 彼には不思議な力がある。 もしかしたら、自分と同じなのかもしれない。 エマは今日、一つの光を見た。 終わり
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