天地2

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天地2

ある晴れた日のこと そこは六畳一間のアパートで、 ほどよく陽の光が入る角部屋だった 少し開いた窓から、 行き交う人々の話し声が聞こえてくる その様子を伺おうと、キーボードを叩く手を止めた、その時だった パソコン越しに見える人の足に 身体が強張った 恐る恐る顔を上げると、 あの男が立っている 「あなたは…」 男はゆっくりと歩みをすすめ、 にじり寄ってきた 怯んでは(ひるんでは)いけない 背中に伝う重苦しい空気に負けまいと 今度はめいっぱい、睨み返した 男は身体を屈め、黒い丸縁のサングラス越しに視線を向けてきた 「聞こえるか」 低く、くぐもった声にぐっと息をひそめ、 ゆっくりと目を閉じる 耳を澄ませると、 ぽたり、ぽたりと音がする 「あ」 勢いよく立ち上がり、 台所に向かった シンクの緩んだ蛇口から、 水がこぼれ落ちていた どうして気づかなかったんだろう 振り返ると、男はもうそこにはいなかった 「なん…だったんでしょう……」 終わり
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