魔法使い、始めました!

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「さぁ、僕を勇者様と呼ぶんだ!」 そう男性に迫られることになった原因は、遡ることほんの数分前のことでした。 私は駆け出しの魔法使い。悪い魔法使いとか、良い魔法使いとかじゃなくて、職業が魔法使い。別に珍しい職業ではありません。私以外にも魔法使いはたくさんいますし、剣士や武道家、僧侶になる人だっています。どちらかといえば魔法使いはメジャーな職業と言えるでしょう。 そんな私はお師匠様の元での修行を終え、ついに!今日!冒険者としての生活がスタートするのです。楽しみなのが半分、怖いのが半分……ですがお師匠様は最後に、『君はいつかきっと立派な魔法使いになれる。ただ……』と背中を押してくださいました。 まずは酒場で仲間を集める、それが冒険者としての最初のお仕事です。一人ではどうしても危険に晒される機会が増えますし、貰えるお仕事の量も違います。私が最初に選んだお店はお皿洗いのアルバイトで何度か来たことがありますが、冒険者として入るのは当然初めてでちょっぴり緊張しました。ですが私は冒険者、お師匠様の言葉を胸に扉を開いたのです。 店の中はお昼時ということもあってでしょうか、多くの人で賑わっていました。大声で笑っているテーブルや、真剣に話し合いをしているテーブルまで様々。早速その中に飛び込んで……という勇気は流石に私にはありませんでした。入口近くに座っていたグループも一瞥くれるだけで、当然勧誘なんてしてくれるはずもありません。そもそも、こんな小娘を仲間に入れてくれる面倒見のいい方が、そう簡単に都合よく現れてくれるはずもありませんでした。 お店に入った手前、何も注文せずに帰るというのは失礼だと思い、私は一度カウンター席に座わることにしました。 「……ご注文は?」 あまり機嫌のよさそうではない店員さんが声を掛けてくれました。アルバイトで何度か会っているはずなのに、私の顔を覚えてはいなかったようです。 「ミ、ミルクをお願いします」 本来お酒を頼むのが礼儀でしょうが生憎未成年、いくら冒険者になったと言えど法律は守らなければいけませんからね。 店員さんはさらに不機嫌そうになって私からの注文を受けると、カウンター内にある冷蔵庫からミルクを取り出し、ジョッキになみなみ注いで私の前に置きました。 ……こんなにミルクを飲んだらお腹を壊してしまいます。ですが注文をしておいて残すのは失礼に当たります、意を決してジョッキに口を付けました。 何度か息継ぎをしながら、何とか飲み干すことができました。ジョッキ一杯のミルクだけでもうお腹がタプタプです。早くこの店を出ようと思っていたのに、これでは動くことができません。お店には申し訳ありませんが、少しだけ休ませていただくことにしました。
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