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私が話し終わっても男性は俯いたままで反応がありません。せっかくのご説明も無駄だったでしょうか。いいえ、そんなはずはありません。きちんとご説明をしましたし、周りの方々も私を見つめています、声量には問題がなかったということです。
ということは、聞こえている上で私を無視しているということになります。これは明確な拒否、私とは仲間にならないということをご納得頂けたようです。
となると私にはもうこの店にいる理由はありません、お話ししてお腹の調子も少し良くなりました。一人で来ているお客さんはどうやらこの男性だけみたいですし、何よりもう飲めません。せっかく出して頂いたミルクですが、残すしかありません。
「すみません、お会計お願いします」
「……あ、あぁ、いいよ、今日は。そいつに出させるから。だからじょ……お嬢さんは帰りな。……いや、帰った方がいいですよ」
「そうですか。どうも親切にありがとうございます」
不機嫌そうだった店員さんもいつの間にか優しくなったようです。店員さんは私の話を聞いて門出を祝ってくれているということでしょうか。
真意は分かりませんが店員さんのご厚意を有難く頂戴し、店を後にします。出口までの間、最初は誰も相手にしてくれなさそうだったのに、今では皆さんが私を見つめています。今日は帰りますが、明日にはきっと素敵な仲間が見つかるかもしれません。
お店を出ると、眩しい日差しと爽やかな風が私を迎え入れくれます。魔法使い初日、仲間こそ見つけることができませんでしたが、私のこれからの人生を祝福してくれいるようで、自然と笑顔が浮かべてしまいました。
私はお師匠様との会話を思い出しました。
『いつかきっと立派な魔法使いになれる。ただ……仲間集めは難航するかもしれないね』
『どうしてでしょうか?』
『そ、それは……うん、えっと……君はちょっとだけ正直なところがあるから。ほんのちょっとだけ言い過ぎちゃう時があるから……いや!本当に!ちょっとだけ!……でもいつか、きっと、多分、おそらく、そんな君を受け入れてくれる仲間が現れるはずだよ……信じていれば、多分、いつかは……ね?』
『お師匠様?』
『さ、さぁ旅立つんだ!君の未来は明るい!明るすぎて見えないくらいだ!うん、眩しい!』
『はい!』
お師匠様の言葉を胸に、私は歩き出します。
さぁ、私の魔法使いとしての生活はまだまだ始まったばかりです!
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