欲望

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拗ねた声をあげた針谷も一緒になって笑い、ほのぼのとした空気に包まれる。 相手を蹴落として1番になることしか考えてなかった過去の俺達からは、想像の付かない雰囲気だ。 「おやおや、えらく楽しそうじゃないか。 俺も混ぜろよ。」 俺達より遅れて帰社してきた部長も笑いながら話に入ってくる。 「あー、実はですね。 頑張ってるコイツらを労いに、明日ランチに連れて行こうかと、そんな算段になりまして。」 「そうか。じゃあ、同じく頑張ってる石島も労ってやらないとな。 俺が奢ってやるからお前達で行ってこい。 俺は明日、嫁とランチの約束してるし、“鬼”がいない方がのんびりできるだろ。 で、何処に行くんだ?」 「うっわぁー!俺もですか!? ラッキー!部長、ありがとうございますっ! 今の話なんで、何処かまだ決めてないんですよ。」 「そうか。俺のデートの邪魔するなよ。 同じ所だとお互いに気不味いからな。」 「そんな野暮なことしませんって。 お前ら、“いつもの所”でいいな?」 「勿論です!」 「何処でもお供します!」 「あざっす!ご馳走様です!」 きび団子に釣られた桃太郎のお供の如く尻尾を振る俺達部下一同なのだった。 いつものように部長に送ってもらい、周囲を確認してドアを開ける。 すんすんと鼻を鳴らしてみるが、あの嫌な臭いはしない。 「一体、何だったんだろう。」 思わず零れ落ちるひとり言。 少し排水溝を触っただけで、これだけ違うんだろうか。 納得しないままリビングに歩を進め、ソファーに身を沈めた。 はぁ…今日も一日頑張ったぞ、俺。 ラッキーなことに、明日は部長の奢りでランチだ。 行き先は俺達常連の『はまもと』という定食屋。これがまたどれを食べても美味い。 生姜焼き定食もいいな。いや、エビフライ定食か?うーん、暫く食べてないカツ丼も捨てがたい。
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