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『おっ、河井。久し振り。
元気にしてるのか?
でも、俺に電話を寄越すなんて、何かに引っ掛かったのか?
セカンドオピニオンとして念入りに診てやるぞ。』
「川上…今電話いいか?」
『おう。ちょっと場所移動するから待ってくれ。
……どうした?』
俺の声音から何か感じ取ったのか、川上のトーンが下がった。
俺は思い切って尋ねた。
「単刀直入に聞くが…二次性が変わるって…そんなことあるのか?」
『ああ。あるよ。
お前…まさか、通知を受けたのか?』
俺はどう返事をしていいのかわからず、黙ってしまった。
黙秘が答えだ。
『今どこにいる?』
「…家。」
『1時間以内で行くから待ってろ。いいな?』
ぷつりと切られた携帯を持ったまま、俺は暫くぼんやりとソファーに座っていた。
雨は窓ガラスを叩くように降っている。
こんな大雨の中を川上は来るというのか。
悪いことしたな。
連絡しない方がよかったのか。
いや。こんな気持ちでひとりで過ごすなんておかしくなりそうだった。
親に相談?
ダメだ。未だΩに対して偏見の塊みたいな人達だから、ご自慢のαの息子がΩになったなんて知れたら何を言われるかわからない。
兄貴は…幼い頃からαの俺と悉く比較され続けてきたβの彼は、きっと『ザマアミロ』と俺を蔑むだろう。
どうしてこんなことに。
俺はαだったのに。
何で俺がΩなんだ?
何かの間違いだろう。
頭をぐるぐると同じ問答が駆け巡っている。
Ωになるくらいなら消えてしまいたい。
いや、これは夢だ。悪い夢に違いない。
一晩眠れば明日の朝にはいつもと同じ生活が待っているはず。
と、突然インターホンが鳴った。
ふらふらと立ち上がり、画面を見た。
川上だ。
髪の毛は濡れてピッタリとへばり付き、走って来たんだろう、荒い息を上げている。
川上を見て、夢ではないことを悟った。
俺は返答せずにロック解除した。
その後は……人生最大の絶望が待っていた。
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