あの日に囚われる(1)

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『おっ、河井。久し振り。 元気にしてるのか? でも、俺に電話を寄越すなんて、何かに引っ掛かったのか? セカンドオピニオンとして念入りに診てやるぞ。』 「川上…今電話いいか?」 『おう。ちょっと場所移動するから待ってくれ。 ……どうした?』 俺の声音から何か感じ取ったのか、川上のトーンが下がった。 俺は思い切って尋ねた。 「単刀直入に聞くが…二次性が変わるって…そんなことあるのか?」 『ああ。あるよ。 お前…まさか、通知を受けたのか?』 俺はどう返事をしていいのかわからず、黙ってしまった。 黙秘が答えだ。 『今どこにいる?』 「…家。」 『1時間以内で行くから待ってろ。いいな?』 ぷつりと切られた携帯を持ったまま、俺は暫くぼんやりとソファーに座っていた。 雨は窓ガラスを叩くように降っている。 こんな大雨の中を川上は来るというのか。 悪いことしたな。 連絡しない方がよかったのか。 いや。こんな気持ちでひとりで過ごすなんておかしくなりそうだった。 親に相談? ダメだ。未だΩに対して偏見の塊みたいな人達だから、ご自慢のαの息子がΩになったなんて知れたら何を言われるかわからない。 兄貴は…幼い頃からαの俺と悉く比較され続けてきたβの彼は、きっと『ザマアミロ』と俺を蔑むだろう。 どうしてこんなことに。 俺はαだったのに。 何で俺がΩなんだ? 何かの間違いだろう。 頭をぐるぐると同じ問答が駆け巡っている。 Ωになるくらいなら消えてしまいたい。 いや、これは夢だ。悪い夢に違いない。 一晩眠れば明日の朝にはいつもと同じ生活が待っているはず。 と、突然インターホンが鳴った。 ふらふらと立ち上がり、画面を見た。 川上だ。 髪の毛は濡れてピッタリとへばり付き、走って来たんだろう、荒い息を上げている。 川上を見て、夢ではないことを悟った。 俺は返答せずにロック解除した。 その後は……人生最大の絶望が待っていた。
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