あの日に囚われる(1)

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ピンポーン ドアノブをガチャガチャ回す音がする。 何だ、せっかちだな。 インターホンで確認することもなく、玄関に向かうと鍵を開けた。 ずぶ濡れの川上が息を荒げて立っていた。 「河井っ!」 「…上がってくれ。土砂降りの中、悪かった。」 「何か拭く物くれよ。 家ん中、びしょびしょになる。」 「そのままバスルームに行ってくれよ。 風邪でも引いたら大変だ。 着替えも出しとくから…」 「あぁ、悪い。そうさせてもらう。 あ、新聞紙くれよ。」 俺が新聞紙を手渡すと、川上は脱いだ靴に丸めた新聞紙を詰めていった。 相変わらずマメな奴だ。 そして靴下を脱ぎ、勝手知ったる他人の家、とばかりに案内なしでさっさとバスルームへ直行した。 シャワーの音が聞こえている間に、新しい下着と部屋着を置いてやる。 川上は学生の頃からの付き合いで、いつもつるんでは遊んでいた。 卒業してからもずっと交流が続いている。 α同士何故かめちゃくちゃ気が合って、親友というのか悪友というのか、俺が一番信頼する奴だ。 小さい頃からの志のまま、医者という夢を叶えた大した奴。 イケメンで頭脳明晰、オマケにあっさりとした性格と、それでいて気配り上手で、絵に描いたαって、川上のことをいうんだろう、と思っている。 そんな奴に告白する者は男女問わずかなりいた。 それにも関わらず、全てにやんわりと断るので『孤高の王子』なんて影で噂されていた。 …俺がΩだと知ったら、アイツは何て言うんだろう。 今までのような付き合い方ができるんだろうか。 それとも…“Ωなんて”と言われるのかも。 「おーい!河井ーっ! 俺の分も一緒に洗濯回しといていいかぁー!?」 え、嫌じゃないのか? 「あっ、お前さえよければ。」 「了解っ!」 暫くして川上がリビングに現れた。
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