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ピンポーン
ドアノブをガチャガチャ回す音がする。
何だ、せっかちだな。
インターホンで確認することもなく、玄関に向かうと鍵を開けた。
ずぶ濡れの川上が息を荒げて立っていた。
「河井っ!」
「…上がってくれ。土砂降りの中、悪かった。」
「何か拭く物くれよ。
家ん中、びしょびしょになる。」
「そのままバスルームに行ってくれよ。
風邪でも引いたら大変だ。
着替えも出しとくから…」
「あぁ、悪い。そうさせてもらう。
あ、新聞紙くれよ。」
俺が新聞紙を手渡すと、川上は脱いだ靴に丸めた新聞紙を詰めていった。
相変わらずマメな奴だ。
そして靴下を脱ぎ、勝手知ったる他人の家、とばかりに案内なしでさっさとバスルームへ直行した。
シャワーの音が聞こえている間に、新しい下着と部屋着を置いてやる。
川上は学生の頃からの付き合いで、いつもつるんでは遊んでいた。
卒業してからもずっと交流が続いている。
α同士何故かめちゃくちゃ気が合って、親友というのか悪友というのか、俺が一番信頼する奴だ。
小さい頃からの志のまま、医者という夢を叶えた大した奴。
イケメンで頭脳明晰、オマケにあっさりとした性格と、それでいて気配り上手で、絵に描いたαって、川上のことをいうんだろう、と思っている。
そんな奴に告白する者は男女問わずかなりいた。
それにも関わらず、全てにやんわりと断るので『孤高の王子』なんて影で噂されていた。
…俺がΩだと知ったら、アイツは何て言うんだろう。
今までのような付き合い方ができるんだろうか。
それとも…“Ωなんて”と言われるのかも。
「おーい!河井ーっ!
俺の分も一緒に洗濯回しといていいかぁー!?」
え、嫌じゃないのか?
「あっ、お前さえよければ。」
「了解っ!」
暫くして川上がリビングに現れた。
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