欲望

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翌日、結果を部長に伝えた。 「そうか。集合住宅は便利だけど色々と大変だな。 でも、すぐに対処してもらえてよかったじゃないか。 まぁ、戸建も戸建なりの悩みもあって、どちらがいいとか悪いとか、人それぞれだから。 どっちもどっちだよなぁ。 で? その“嫌な臭い”って何なのか思い出したのか?」 俺は首を横に振りつつ 「いいえ。それがさっぱり。 でも、絶対に何処かで嗅いだ臭いなんですよ。 簡単に言うと 『くっせぇ、キモっ』 って感じですかね。」 「ははっ。そんな強烈な臭いならすぐに思い出すさ。 さ、今日も気合い入れて仕事すっぞ!」 「はい!」 部長に発破を掛けられて、俺は嫌なことを忘れるように、その日フル回転で働いた。 お陰で新規契約も取ってきたし、提案した資料を渡した会社はいずれも好感触だった。 今月中に、何とか契約に持って行けるかも。 大畑の悔しがる顔が浮かび、ニヤついていると、帰社した大畑本人に見咎められた。 「おい、河井。何だよ、ヘラヘラしやがって。 俺だって契約取ってきたんだからな。 お前だけにカッコいい思いなんかさせないぞ。」 肩をバシバシ叩いて笑いながら言うから喧嘩にもならない。 こっちも笑いながら返す。 「ははっ、そんな顔に見えたか? 悪かったなぁ。 なーんだ。お前も取ってきたのか。 苦しゅうない。褒美を取って遣わす。」 ぶはははっっっ 同時に噴き出した。 「……あーっ、腹痛ぇ… じゃあ、何の褒美を貰おうかな。」 「あっ、高い物ナシな! せいぜいがビールか…っていうか、何で俺が奢らなくちゃならないんだよ。」 「さっき『褒美を遣わす』って言ったじゃないか!」 「しまった!そうだ!」 くすくす笑いながら聞いていた石島課長が 「じゃあ、営業頑張ったお前達に、明日ランチを奢ってやろう。」 「やった!マジですか?」 「石島課長に御光が見えますっ!」 「えー、課長!俺も頑張ってるんですけどっ!」 「わかった、わかった。 針谷もみんな連れて行くから。」
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