剣とチェンバロ

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「グレンを呼んで! 近衛隊長を! 助けて! 殺される!」  詰所の硬い寝台の上で、グレンは浅い夢の中にいた。  しかしその声が耳をかすめた瞬間、からだは反射的に跳ね起き、淀みない動きで傍らの剣をつかんだ。肩で扉を押し開ける。  眠っていた城の居室には次々と戸惑いの蝋燭が灯り、怖々と開けられた扉の隙間から薄い光が揺れている。  声の主はおそらく領主の奥方、セアラ・レイド様だ。  まさか門番を突破して、隣国の刺客が領主様を襲いに来たのか。そこまで事態は悪化していないとの考えは、誤算だったか。  剣の柄を握るグレンの手に、力がこもる。  壁の小さな松明が、暗く廊下を照らす。その奥から、裸足のセアラが飛び出してきた。「助けて!」彼女は転がるようにグレンの背中に回った。  背後のふいごに似た呼吸を聞きながら、グレンはすらりと剣を抜いた。
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